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【今週のPowerPush】野球場、それは社会の重圧から解放された気分になる場所! “ヤクルトファンの25歳OL”と、”野球観戦初心者の女子大生”の2人が、様々な球場を巡りスタジアムグルメを堪能する『野球場でいただきます』は、かわいくて、でもほんの少しだけ苦い、大人の百合漫画です!

 

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出内テツオ『野球場でいただきます』(KADOKAWA)1巻より

スポーツ漫画」というと原則的には"何らかの競技を描いた漫画で、主人公はその競技の選手"、ということになると思うのですが、おそらくスポーツ漫画の読者のうち99%はプロ選手ではないと思います。「プロの試合を観戦する側の人」がきっと大多数でしょう。

 

であれば、「観戦する側の人」に焦点を当てた漫画がもっとあってもいいはずです。観戦する時の楽しみといえば? そうスタジアムグルメです。主人公とヒロインが、どちらもかわいい女性キャラであればもっといいですね。そんな勝利の方程式に完璧に一致した作品を本日はご紹介します。3月4日に第1巻が発売されたばかり、出内テツオ先生の『野球場でいただきます』(KADOKAWA)です。

 

 『野球場でいただきます』の第一話はこちら↓から読むことができます。

野球場でいただきます 無料漫画詳細 - 無料コミック ComicWalker

 

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出内テツオ『野球場でいただきます』(KADOKAWA)1巻より

25歳の会社員、坂本 つばめには、みんなには内緒の「ある趣味」がありました。それは、「野球場に行って 思うように 好きなだけ カロリーもお財布も気にせず 酒と飯を貪り散らかすこと」!

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出内テツオ『野球場でいただきます』(KADOKAWA)1巻より

第一話でつばめが向かったのは、千葉ロッテマリーンズの本拠地、ZOZOマリンスタジアム。様々な種類のもつ煮が販売されているこの球場で、ありったけのもつ煮をかき集め、客席で食べ始めようとした瞬間……つばめは、隣の席のお客さんに話しかけられます。「それ 全部もつ煮ですか!? おねーさん大食いですね…!」と。

 

実は彼女は、たまたまチケットを貰い、今日初めて野球観戦に来たばかりの大学生でした。名前を亀井ちゃんと言います(下の名前は不明です)。

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出内テツオ『野球場でいただきます』(KADOKAWA)1巻より

おいしいご飯とお酒、そして野球場の独特の雰囲気によって、急速に仲良くなる二人。試合後の帰り道、つばめは「興味があれば… 他の球場も一緒に行きませんか?」と亀井ちゃんを誘うのでした。

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出内テツオ『野球場でいただきます』(KADOKAWA)1巻より


 

 

 

『野球場でいただきます』は、OLの”つばめ”と大学生の“亀井ちゃん”の二人が実在する様々な球場を巡り、野球観戦とグルメを満喫する漫画です。

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出内テツオ『野球場でいただきます』(KADOKAWA)1巻より

第一話の、「野球場の雰囲気ってすごいんだ」「社会の重圧から解放されて自由になれた気がする」というつばめのモノローグは、プロ野球に限らず何らかのスポーツ観戦を経験したことのある人なら共感できるのではないでしょうか。大人たちがハメを外している空間っていいですよね。

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出内テツオ『野球場でいただきます』(KADOKAWA)1巻より


また「年俸ウン億ウン千万たちが労働中に飲む酒がうんめ〜〜〜〜!」という身も蓋もないセリフもありますが、筆者はこれも個人的にものすごく共感できます。スポーツ観戦をしていると、「選手たちは高年俸で、きっとモテモテで、人生の勝ち組なのに……そんな彼らを、社会の底辺を這いずるこの俺が応援するだなんて滑稽の極みなのでは…??」などという、卑屈な考えがよぎることがしばしばあります。しかし、”高年俸の選手たちの労働中に飲む酒がうまい!”という考え方を取り入れたならば、卑屈になる必要は全くありません!笑 

 

本作のお酒を飲む描写はどれも本っっ当に美味しそうです。特に第二話、メットライフドームで焼きたての石窯ピザを食べた後、ブルームーンのビールで「ガーッと流す」描写がもう最高にうまそうなんです!

 

 

 

ところで、「”スポーツ観戦とスタジアムグルメ”を描いた漫画」は、実は先行作品が結構あります。例えばこのブログでも取り上げたことがある作品『球場三食』は、本作と同様に実在する野球場のグルメをテーマにした漫画です。

参考記事:【知られざる名作】野球を愛してやまない主人公が、愛してやまない”球場メシ”を食べる! 観戦の日は三食すべてを球場内で調達する筋金入りのプロ野球ファンが、実在の球場で実在のグルメを食べまくり、こだわりと薀蓄を語りまくる本格野球漫画『球場三食』を読むと今すぐ野球場に行きたくなる! - 最強おもしろ漫画紹介ブログ

 

また、”サッカー観戦とスタジアムグルメ”の楽しさを描いた作品としては、Jリーグ漫画の巨匠・能田達規先生の傑作『ぺろり!スタグル旅』がありますし(余談ですが『サッカーの憂鬱』『マネーフットボール』など能田達規先生のJリーグ漫画はどれも傑作ばかりです)、野球場のビール売り子の視点からプロ野球の世界を描いた作品では、石田敦子先生の球場ラヴァーズシリーズを忘れてはいけません。また、現在モーニング誌で連載されているボールパークでつかまえて!』も、ビール売り子の視点からコメディタッチで野球場の日常を描く作品です。

参考記事:【今週のPowerPush】千葉の野球場で働く新人ビール売り子・ルリコの目を通して描かれるのは、お客さんや球場スタッフ、選手やその家族など、スタジアムに集まるさまざまな人々の”愛すべき日常”! ラブコメ作品のようでしっかり野球漫画な『ボールパークでつかまえて!』はオフシーズンにぴったり! - 最強おもしろ漫画紹介ブログ

 

では、本作『野球場でいただきます』を先行作品たちと比較したとき、本作の強みといえるところはどこでしょうか? いくつかあると思いますが、最大のものは主人公二人の関係性を、趣味(野球観戦)と結びつけながら掘り下げていくところではないかと思います。

 

たまたま友人からチケットを貰い、初めて野球観戦をしたばかりだった”亀井ちゃん”。しかし、つばめと共に色々な球場を巡り、試合を観ていく中で、「推しチーム」「推し選手」もできていきます(まあ、あの選手に惹かれる気持ちは筆者もわかります。すごい選手ですからね彼は)。

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出内テツオ『野球場でいただきます』(KADOKAWA)1巻より

しかし、どんな趣味でも……最初は楽しくても、次第に「イヤな面」も見えてくるもの。亀井ちゃんの場合、それは周囲の野球ファン(の一部)による諍いや、SNSでの過激な言動などでした。

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出内テツオ『野球場でいただきます』(KADOKAWA)1巻より

いつしか楽しさよりも嫌な気持ちのほうが多くなり、野球観戦をしばらくやめようかと考える亀井ちゃん。おそらく、つばめがいなければ、亀井ちゃんはこの新しい趣味からフェードアウトしていたのではないかと思います。しかしある時、つばめに相談することで事態が急激に変わっていき、亀井ちゃんの心境も変わっていくところが何とも言えず良いのです。この二人、性格は結構正反対なのですが、相性が抜群に良いんですよね!

 

この記事のタイトルに「大人の百合漫画」と書いてしまいました。本作の表紙やオビなどを見ても、どこにも「百合」とは書いてありません。直接的な恋愛描写がある作品でもありません。しかし! 筆者に言わせていただけるならこの漫画はどう考えても百合漫画です(断言)! 亀井ちゃんにつばめさん以外の恋人ができるなんてありえないですね! とはいえ、筆者が強めの幻覚を見ている可能性も否定しきれませんので、この作品が百合漫画かどうかは、是非実際に読んでみてお確かめください。