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【今週のPowerPush】千葉の野球場で働く新人ビール売り子・ルリコの目を通して描かれるのは、お客さんや球場スタッフ、選手やその家族など、スタジアムに集まるさまざまな人々の”愛すべき日常”! ラブコメ作品のようでしっかり野球漫画な『ボールパークでつかまえて!』はオフシーズンにぴったり!

 

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

テレビ中継などではなく、スタジアムで野球を見る楽しみのひとつに「球場で飲むビール」があると思います。広大な空間、緑の芝生、大勢の観客、そしてプロ選手たちのプレー……それらを見ながら飲むビールは、家や居酒屋で飲むより美味しく感じたりしますよね。

 

本日ご紹介する作品『ボールパークでつかまえて!』(講談社、1巻まで発売中)は、そんな野球観戦には欠かせないビールを届ける”売り子”の視点から、野球場に集まるさまざまな人々を描いた作品です。

  

※『ボールパークでつかまえて!』の第1話はこちら↓から読むことができます

comic-days.com

 

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

社会人になって数年、”社畜”まっしぐらな青年・村田の趣味は野球場へ行くこと。応援しているチームは、京葉線海浜幕張駅の近くにあるスタジアムを本拠地とする「千葉モーターサンズ」です。

 

バックネット裏、外野応援席など球場には色々な席がありますが、村田は空いている自由席でまったり見るのが好きなタイプでした。そんなある日、やけに押しの強いビールの売り子が現れ、隣の席に座って休憩しながらビールを売りつけてきました。

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

彼女の名はルリコ。新人ビール売りのルリコは、「常連さん」になってくれるお客さんを探しながらビールを売り歩いていたのでした。

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

「自分みたいな底辺サラリーマンが(選手に)「頑張れ」とか何様って感じだし…」そんな卑屈な気持ちで観戦していた村田ですが、ルリコとの会話をきっかけに、明るい気持ちを少し取り戻すことができたのでした。

 

『モーニング』誌で『ボールパークでつかまえて!』の連載が始まった時、筆者は正直に言うと「ああ、よくあるやつね」と思ってしまいました。「これって”オタクに優しいギャル”の漫画なんでしょ?」と。しかし、それは間違いだったことが、第3話以降で明らかになっていきます。

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

第3話に登場するのは村田ではなく、派手な見た目の女性・滝野 ユキ。何を隠そう、彼女は「千葉モーターサンズ」のコジロー選手の妻です。35歳のベテランにして、現在打率2割とやや低迷しているコジロー選手。客席の酔っぱらいたちがコジロー選手の悪口で盛り上がり、ユキと一触即発状態になります。そこにたまたま通りがかったルリコ。ルリコは一体、彼らにどんな言葉をかけるのでしょうか……というのが第3話のストーリーです。

 

そう、『ボールパークでつかまえて!』は、ルリコと村田がいちゃいちゃするだけの漫画……ではないのです! 第3話以降も「ビールの売り子に憧れる弁当売り場のお姉さん」の物語があり、「いまいちチームに馴染めない助っ人外国人」の物語があり、「神出鬼没のマスコットキャラクター」の物語があり……と、ルリコの目を通して「球場に集まるさまざまな人々」が描かれるのです(村田が再登場する回も何度かあります)。

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

プロ野球の特徴として「開催される試合数が多い」ということが言えると思います。時には同じ球場で6日連続で試合があったりするプロ野球の球場は、ハレの場であると同時にある種の「日常空間」でもあるかもしれません。実はそんなに強くない、いまのところ優勝争いに絡んだりはしていない「千葉モーターサンズ」。しかしそんなチームのために集まる人々の日常はあたたかく続いているのです。

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

ボールパークでつかまえて!』1巻の中で、筆者が個人的に特に好きなエピソードは第5話。この球場で30年もの間、警備員として働いている五十嵐 龍一さんのお話です。

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

バイトで警備員をしている若者は言います。「ただ突っ立って同じことの繰り返しだろ」「こんな仕事 長く続ける人の気が知れんわ」と。その言葉を、五十嵐さんは黙って聞いています。そこにルリコが、「球場の通路で保護した迷子の4歳児」を連れてやってくるのですが……。この迷子の子どもをきっかけに、五十嵐さんと新人警備員、そしてルリコのそれぞれの思いが交錯するハートフルストーリーなのでした。

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

ボールパークでつかまえて!』は、基本的に一話完結のストーリーが連続するスタイルで、極端な話「生まれて初めてモーニングを読んだ人」がいきなり第20話から読んだとしても楽しめるような作品だと思います。ストーリーが読みやすく整理されていて、とても親切設計なのです。

 

(ある回で"悪役"のような感じで登場した人たちも、次の回からは「球場に居るいつものメンバー」みたいな感じで登場し、いつのまにか定着していくのも、"優しい世界"という感じで個人的にとても好きです。笑)

 

また、第1巻の構成もよく練られていて、第1巻のラスト2話(前後編)がまるで最終回のように綺麗に物語全体をまとめているのです(※注・現在も連載は続いています!)。何も考えずに気楽に読める漫画ですが、その実、とてもよく考えられている作品だなぁと思います。

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須賀達郎『ボールパークでつかまえて!』(講談社)1巻より

野球場に集まる人々の日常を楽しく描いた『ボールパークでつかまえて!』。プロ野球がシーズンオフの今だからこそ、この作品を読んでみてはいかがでしょうか。開幕がさらに待ち遠しくなること請け合いです!