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【今週のPowerPush】町で噂の心霊スポットを調査することになってしまった新聞部の茜。ミステリアスな転校生・藤乃を誘って、二人の”寄り道”が始まる! 背景の美しさにも惹き込まれる作品『ゆうやけトリップ』は、ホラーが苦手な人にこそお薦めしたい、優しくノスタルジックな漫画です

 

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

あなたが暮らす町には「心霊スポット」はありますか? 霊なんて信じていなくても、「出る」と噂の場所には、何となく近づきたくなかったりするものですよね。

 

本日ご紹介する作品はそんな「心霊スポット」をめぐる漫画……なのですが、ホラー作品かと思いきや実はそんなに怖い漫画ではありません。むしろ、どこか懐かしいような気持ちになる……なぜか生まれ育った町への郷愁が呼び起こされるような、あたたかい作品なのです。『ゆうやけトリップ』(芳文社、1巻まで発売中)を本日はご紹介します。

 

 

※『ゆうやけトリップ』の第1話〜第4話はこちら↓から読むことができます

COMIC FUZ|ゆうやけトリップ - ともひ - 映像化作品などのバラエティ豊かなマンガが読める芳文社公式

 

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

坂の多い町「宵の坂町」に暮らす中学二年生・蜷森 茜が本作の主人公。茜が通う中学校では最近、町の「心霊スポット」に関する噂が流行していました。自分はそんな心霊スポットとは無縁だと思っていた茜でしたが……

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

茜が所属する新聞部で、町の心霊スポットを取材する連載企画がスタート。クジ引きの結果、茜がその担当者に選ばれてしまいます。

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

ひとりで心霊スポットに赴くことが決まり、見慣れた校内の景色まで何だか恐ろしく見えてきた茜。そんな時、放課後の教室に人が残っていることに気づきます。

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

隣の席の転校生・雨村 藤乃。茜は思わず、藤乃に「ふたりで心霊スポットに寄り道しませんか?」と藤乃を誘ってしまうのでした。

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

教室では、無口で近寄り難い印象だった藤乃でしたが、話してみると落ち着いた雰囲気で喋りやすいということがわかりました。そして、打ち解けた二人は、いよいよ初めての”心霊スポット“へと足を運ぶのでした……。

 

 

 

1ページ目からおどろおどろしい雰囲気で始まる『ゆうやけトリップ』なのですが、読み進めていくと実はホラー作品ではないということがわかってきます。どちらかといえば、ホラー作品のエッセンスを取り入れた日常の謎」系のミステリに近い味わいかもしれません。

 

いつも元気いっぱいな主人公・茜と、物静かでミステリアスな藤乃という主人公二人の組み合わせが絶妙で、二人が徐々にお互いのことを知り、仲良くなっていく過程を描いた、友情(もしかしたら百合)がテーマの作品と言えるのは間違いありません。

 

そしてもうひとつ特筆すべきは、背景の美しさです。まるで水彩画のような独特のタッチで、細部に至るまで丁寧に描き込まれた背景は、ある意味ストーリーやキャラクター以上に雄弁に物語るような、この漫画の魅力を構成するいくつかの要素の中でも最大のものと言えるのではないでしょうか。

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

輪郭線が滲んだような絵で描かれるさまざまな景色は、まるで現実と非現実のあわいを曖昧にしていくようで、不思議な噂のある心霊スポットを巡る二人の物語に絶妙にマッチしています。この絵柄で描かれることによって、恐ろしい景色がより恐ろしく見えるのは間違いありません。

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

そして、心霊スポットに限らず、細かく描かれる「宵の坂町」の風景のひとつひとつが、何とも言えない懐かしさを読む者の心の中に呼び起こしていきます。雑な言い方をするならば「昭和っぽい感じ」でしょうか。筆者の個人的な感覚で言うと、「子どもの頃に見ていた景色のような感じ」をこの漫画は次々と描き出していきます。

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

圧巻なのは、ある回の途中で挿入される12ページ連続のカラーページ(!)です。そこまで高密度なモノクロでのストーリーが続いていたこともあって、一瞬で世界が明るく輝きだしたような感覚になります。そしてそれが、作中の登場人物たちの心情と見事にリンクしているのです。

(ところで、筆者は電子書籍で本作を購入したのですが、紙版でもこのカラーページは収録されているのでしょうか? 印刷の都合上、難しいかもしれませんが、ここはぜひカラーページで収録されていてほしい!)

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ともひ『ゆうやけトリップ』(芳文社)1巻より

ホラー作品「ではない」作品として進行していく本作ですが、1巻の終盤で、実は心霊スポットよりも、もっと身近なところにこそ怪異が存在している……という可能性が示唆されます。その伏線が指し示しているような展開が今後訪れるのか、それともミスリードなのか……。読めばわかりますが、これはとても続きが気になるタイプの伏線です。2巻が出るのを楽しみに待ちたいと思います。

ゆうやけトリップ 1巻 (FUZコミックス)

ゆうやけトリップ 1巻 (FUZコミックス)