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【知られざる名作】漫画の新人賞を受賞した女子高生・かおる。しかしその受賞作は、かおるの名前を使って兄が投稿したBL漫画で…!? レジェンド・ゆうきまさみ先生が、『白暮のクロニクル』と並行して不定期連載していた『でぃす×こみ』は、漫画好きほど楽しめる仕掛けを持った”漫画の漫画”の名作です!

 

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

ゆうきまさみ先生といえば、言わずと知れた漫画界のレジェンド。『究極超人あ~る』『機動警察パトレイバー』『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』など、漫画史に輝く傑作を数多く生み出し続けている、まさに伝説的な存在です。

 

その、ゆうきまさみ先生が2013年から2017年にかけて連載されていた『白暮のクロニクル』(小学館、全11巻)は、吸血鬼にも似た不老の種族”オキナガ”が社会に溶け込んでいる現代日本を舞台に、「12年に一度」の間隔で起こり続ける連続殺人事件の謎を追う、SFミステリーの傑作でした。

 

そんな『白暮のクロニクル』と並行する形で、2013年から2017年にかけて不定期連載されていた作品『でぃす×こみ』(小学館、全3巻)をご存知でしょうか? 重厚な『白暮のクロニクル』と対を成すように、『でぃす×こみ』は新人漫画家を主人公にした軽やかなコメディでした。漫画好きの人ほど楽しめるような、ある”仕掛け”も用意されているこの作品を今日はご紹介します。

 

 

 

※『でぃす×こみ』の第一話はこちら↓から読むことができます

でぃす×こみ - pixivコミック

 

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

大手出版社による漫画の新人賞「奨楽社新人コミック大賞」の授賞式。7期ぶりの大賞受賞者となった渡瀬 かおるでしたが、その表情は「嬉しさ」ではなく「怒り」に満ちていました。その理由は……

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

時を遡ること15分前。遅刻ギリギリで会場に到着したかおるは、受付で入選作をまとめた冊子を受け取りました。ページを開き、驚きのあまり思わず冊子を取り落とすかおる。なぜなら、そこに自分の作品として載っていた漫画は、自分が描いた漫画ではなかったのです。

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

そもそも「少女漫画部門」ではなく「少年漫画部門」に投稿していたはずですし、本名ではなくペンネームを使っていたはずなのに、掲載されていたのは「少女漫画部門」、作者名もペンネームではなく自分の本名となっていました。そこから推測されるのは、誰かがかおるの名前で作品を送り、それが大賞を受賞したということ。

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

「自分は作者ではない」と言い出せず、賞状をもらって帰ってきてしまったかおる。自分宛てに連絡が来たのだから表彰されても何の問題もないだろう、と思う一方、いったい誰が何のために自分の名前で作品を送ったのか、誰かが自分を陥れようとしているのではないか、と不安にもなります。

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

そこに現れたのが、かおるの兄・渡瀬 弦太郎。大学四年生で就職活動中ですが、一社の内定も貰えずフラフラしている兄に、かおるは「受賞作」を見せ、事の経緯を説明します。

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

「受賞作」の1ページ目を見た弦太郎の口から飛び出したのは、「俺が描いた漫画」という衝撃の一言でした。

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

かおるの知らないところで、同じ賞に応募していた弦太郎。締切に間に合わなかったと思い込み、次回の賞の対象になると思っていましたが、実は締切に間に合っていたのです。

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

「受賞作」は、過激な描写こそないものの、かなりBL風味の強い少女漫画でした。弦太郎は、特にBLが描きたかったというわけではなく「セツなくも美しい物語を描きたかっただけなんだ」と言います。そして、とっさにペンネームが思いつかず、妹の名前で送ってしまったとも。

 

もはや担当編集者に本当のことを告げられるような状況ではなくなってしまったかおると弦太郎は、かおるに大賞受賞者にふさわしい実力がつくまでの間、兄妹の二人三脚で漫画を作っていくことを決意するのでした。

 

 

 

でぃす×こみ』は、本当はまだ実力がないのに漫画家デビューしてしまった妹と、漫画作りの才能を持った兄とが協力して漫画を制作していく漫画家コメディの名作です。

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

望んだ舞台ではなく少女漫画誌(しかも編集者には毎回BL漫画を求められる)とはいえ、「棚からぼたもち」的にデビューすることができたかおる。最初は実力が伴わなかったかおるですが、敏腕編集者や漫画家仲間、さらに漫画の才能がある兄と切磋琢磨することによって、だんだん面白い漫画が描けるようになっていくのが本作の面白いところです。

 

本作の中では、かおるは長編連載ではなく読切をいくつも描くことになります。すなわち、かおるは様々な「男×男」の関係性を面白く描かなければいけないということ。たとえば「名探偵×怪盗」の関係性を、限られたページ数の中で面白く描くにはどうすればいいか? とかおるが思い悩む回(第10話)がありますが、ここで兄・弦太郎が出してくるアイディアにはかおるも驚かされますし、でぃす×こみ』を読んでいる我々読者も「なるほど、その手があったか!」と驚くはずです。

 

 

 

本作は『白暮のクロニクル』との同時連載だったということもあり、1月号→4月号→9月号→…というように、不定期なペースで月刊誌に掲載される作品でした。そのかわり、掲載される時は必ずカラーページがついているという特徴があったのです。

 

さらに、そのカラーページは作中作(本編の中でかおるや弦太郎が描いた漫画)という設定になっており、ゆうきまさみ先生ではなく、他の漫画家さんが着色しているというのが面白いところです。

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

第一話は灰原薬先生、第二話は黒丸先生、第三話は室井大資先生……というように、毎回違う先生が着彩を担当されているのですが、カラーを担当する漫画家さんによって作品の雰囲気がかなり変わってくる(まるでゆうきまさみ先生の漫画ではないようにすら見えてくる)のがとても面白いです。

 

このカラーページは、単行本でもカラーで収録されているので、漫画好きの人はぜひ読んで「これは誰が着色したのだろうか?」と推理してみると面白いと思います(正解はあとがきや奥付に書いてあります)。

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ゆうきまさみでぃす×こみ』(小学館)1巻より

筆者が個人的に好きなのは「第11話」のカラーページ。筆者は、最初のページを見た瞬間に「あっ、この色の塗り方は、"あの先生"だな」とわかりました。色の塗り方だけで個性が出せるのですから、プロの漫画家さんって本当に凄いですよね……。

 

 

 

でぃす×こみ』は、漫画が好きな人ほど楽しめる、“漫画の漫画”の名作です。全3巻で綺麗にまとまっている作品なので、ゆうきまさみ先生のファンの方はもちろん、ゆうきまさみ先生の漫画をまだ読んだことがないという方の入門編、「最初の一冊」としてもお薦めできる作品だと思います。総勢15名の人気漫画家によるカラーページも楽しめてより一層お得な『でぃす×こみ』、是非読まれてみてはいかがでしょうか。