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【知られざる名作】野球を愛してやまない主人公が、愛してやまない”球場メシ”を食べる! 観戦の日は三食すべてを球場内で調達する筋金入りのプロ野球ファンが、実在の球場で実在のグルメを食べまくり、こだわりと薀蓄を語りまくる本格野球漫画『球場三食』を読むと今すぐ野球場に行きたくなる!

 

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渡辺保裕『球場三食』(講談社)1巻より

新型コロナウイルスの影響で、例年とは全く違うシーズンになった2020年のプロ野球。開幕も遅れ、当初は無観客での開催でもありましたが、途中からは”有観客”の開催が認められ、レギュラーシーズンを全て消化することができました。

 

日本シリーズが終われば、プロ野球はシーズンオフ。そんなストーブリーグの季節でも”野球熱”を維持するのにぴったりな作品を本日はご紹介します。2016年から2018年にかけて『アフタヌーン』誌で連載された、渡辺保裕『球場三食』(講談社、全4巻)です。

 

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渡辺保裕『球場三食』(講談社)1巻より

『球場三食』(ちなみにこの題名、「きゅうじょうさじき」と読ませます。「天井桟敷の人々」なんかを想起させますよね)の主人公、日下 昌大は32歳。予備校で日本史を教えている彼の趣味は”野球観戦”なのですが、実はかなりこだわりが強いタイプの野球ファンなのです。

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渡辺保裕『球場三食』(講談社)1巻より

彼のこだわり……ひとつめは、到着したら球場に正面から向き合うこと。そうすることで「今から大好きな野球を見るんだ」と胸に刻む……その気持ち、何だかわかるような気がします。

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渡辺保裕『球場三食』(講談社)1巻より

そしてふたつめのこだわり。彼はこう言うのです。

「野球を愛する者は 誰もが胸のうちに自分だけの公認野球規則を持っている 【野球観戦日の食事は三食すべて球場内で調達する】 それが俺の野球規則第3条4項だ」と。

“自分だけの公認野球規則”を守るため、ナイターの試合でも朝から何も食べずに臨み、”球場メシ”を三回食べる……『球場三食』は、そんな彼の観戦ライフを描いた作品です。

 

理由は後述しますが、彼には特定の”推し球団”がありません。12球団を平等に愛し、野球そのものを愛している彼は、フラットな気持ちで日本中の各球場を訪ねるのです。首都圏在住の彼ですが、関西や広島、博多、仙台に北海道と全4巻のコミックスの中で12球団すべての球場を訪れます。それだけではなく、「ナゴヤ球場」や「藤井寺球場(跡地)」、さらにキャンプ地の沖縄まで、野球の香りがする場所ならどこにでも向かっていくのです。

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渡辺保裕『球場三食』(講談社)1巻より

球場に入り、グラウンド全体を見回した時、きまって彼は「たまらない…」と口にします。幼少の頃、初めて野球場に入った時の感動をおぼえている人は多いのではないでしょうか。都会の真ん中に突如ひろがる広大な空間、緑の芝生……『球場三食』は、そんな野球場の独特の魅力を描いた作品でもあります。

 

そんな『球場三食』ですが、最大の魅力は実在の球場の実在のグルメを描いていること。これがどれも本当においしそうで……絶対に深夜に読んではいけないやつです。作者の渡辺先生が実際に食べ歩いているので描写の信頼感がすごいのです。私は、初めての野球場を訪れる際には、前日に『球場三食』で予習してから行くようにしています。(本当に)

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渡辺保裕『球場三食』(講談社)1巻より

『球場三食』では、野球場に集まる人々を生き生きと描いているのもポイント。取材旅行の際に実際に客席にいた人々を描いているそうで、わいわいと楽しんでいる人たちだけでなく、時にはマナーの悪いお客さんの描写などもありますが、良い意味で騒々しい野球場のありさまを活写した作品だといえるでしょう。もちろん、連載当時はコロナ禍などなかった時代ですから、野球場に集まる人々は思い思いに叫んで、はしゃいでいるのです。

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渡辺保裕『球場三食』(講談社)1巻より

主人公の日下 昌大は、基本的にひとり観戦を主とするスタイルでありながら、ノローグでめっちゃ喋ります。王や長嶋の時代のことから最近のOPSやWHIPの話まで、野球に関する薀蓄を語りだしたら止まらないタイプの人なのですが、それでも全然イヤな感じがしないのは、「『上から目線』にならないように心がけている」そして「本当に野球が好きで好きで仕方ないことが伝わってくる」からなのだと思います。

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渡辺保裕『球場三食』(講談社)1巻より

ところで、”推し球団”が無いにもかかわらず、彼はなぜこんなにも野球を愛しているのでしょうか? それは彼が、今は亡き近鉄バファローズのファンだったから。近鉄バファローズがオリックスとの合併という形で消滅した後も野球を愛し続けている彼は、12球団をフラットに見ながら各地の球場を訪ねているのでした。

 

主人公の、そして作者の燃えたぎる野球への熱い想いが全編に溢れている『球場三食』。この漫画を読めば、コロナ以前の野球場の賑わいを懐かしく思い出すと同時に、今すぐ野球場に行って観戦したくなること請け合いです。2021シーズンの開幕まで、『球場三食』を読み返して肩をあたためておきましょう。