【週末イッキ読み推奨】ある日突然、男たちの”初恋の思念体”が見える体質になってしまった少年・タロウ。初恋の相手と10年ぶりに再会するものの、待っていたのは意外すぎる事態で……『少年のアビス』の峰浪りょう先生が少年サンデーで連載していた名作『初恋ゾンビ』は安心安全な”光のラブコメ”です！
毎週毎週震えています。何にって、ヤングジャンプに載っている『少年のアビス』にです。この世の最果てのような田舎町で、逃げ場のない人間関係や家族関係に苦しめられる主人公・令児くんの明日はどっちだ。モテることがこんなに羨ましくない主人公は初めてです。
さて、本日ご紹介するのは、その『少年のアビス』の作者・峰浪りょう先生が、『少年のアビス』以前に連載されていた作品です。というと、『少年のアビス』のようにダークで救いがない漫画かと思われるかもしれませんが、ご安心ください。本作は3年以上にわたって少年サンデーで連載された、胸がキュンキュンするような”光のラブコメディ”なのです！ 『少年のアビス』と同じ人が描いているとはとても思えないような爽やかさに溢れた名作『初恋ゾンビ』（全17巻、小学館）の魅力を本日はご紹介していきます。
※『初恋ゾンビ』は、現在「サンデーうぇぶり」のアプリで5巻まで無料で読めるようになっている他、電子書籍サイトなどでも5巻まで無料で読めるようになっています。これは期間限定で「3月31日まで」のようなので、お早めにチェックしてみてください。
https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=477
高校一年生の久留目 タロウは、恋愛に興味のない”省エネ男”でした。幼い頃、ものすごい数の習い事をさせられていたタロウは、それら全てに興味や情熱を持たず、全て均等に手を抜くことで何とか生き延びてきた少年だったのです。そんな彼が、恋愛などという精神と肉体を消費するイベントに興味を持つはずがありませんでした。
しかしある時、幼なじみの江火野 芽衣がかっ飛ばしたソフトボールの打球が頭に直撃。額に傷を負い、気を失ったタロウが保健室で目覚めた時、タロウは自分の頭上に浮かぶ、キラキラと輝く美少女が見えてしまうようになっていました。
明らかにこの世のものとは思えないその美少女。幽霊なのか死神なのかもタロウにはわかりませんが、その少女は容姿や声など全てがタロウの理想そのものでした。
この幽霊（？）を見てタロウが思い出したのは、幼稚園児の頃に通わされていた英語教室にいた、”イヴ”というニックネームの少女。タロウはイヴと親しくなり、友達以上の感情を抱き始めていましたが、イヴは外国へと引っ越してしまいました。記憶の奥底に封じ込めていましたが、このイヴこそがタロウの初恋だったのです。
タロウが保健室から教室へと戻ると、自分の頭上に浮かぶ”イヴ”だけでなく、クラスの男子たちの頭上にも、さまざまな”幽霊”が浮かんでいるのが見えるようになっていました。そしてその幽霊たちは、男子たちの”初恋の相手”と同じ顔をしていたのです。
それは、男子の脳内で言動や服装などを都合よくねじまげられた、”妄想の思念体”とでも呼ぶべき存在でした。タロウは、自分の頭上に浮かぶ”イヴ”も含めて、突然見えるようになったそれらを”初恋ゾンビ”と名づけます。
周囲の人間関係を観察しているうちに、タロウはあることに気がつきます。それは、初恋が成就すると”初恋ゾンビ”は消滅するということ。しかし、タロウの初恋の相手は遠い外国へと行ってしまいました。初恋を成就させられるわけもありません。
……と思っていたら、タロウのクラスに転校生がやってきます。”イヴ”そっくりな顔をしたその転校生は、タロウを見るなりこう言いました。「キミ、5歳の時あすなろ英語教室にいたタロちゃんだろ？ イヴだよ！ 憶えてない？」と。そう、タイミング良くタロウの初恋の相手が日本に戻ってきたのです。しかし、10年ぶりに再会したその初恋の相手・指宿 凛々澄は、どう見ても男だったのですが……。
【ここまでが第1話のストーリーなのですが、本記事はこの先、「第1巻のラスト」までのネタバレを含みます。ご注意ください】
『初恋ゾンビ』は、初恋の”妄想の思念体”こと”初恋ゾンビ”が見えるようになったタロウを主人公にした、明るいラブコメディです。終盤にはややシリアスな展開もありますが、絵柄といいストーリーといい『少年のアビス』や『溺れる花火』と同じ作者の作品とは気づかない方も多いのではないでしょうか。
タロウに存在を認知されたことで、次第に自我を持ち始める”初恋ゾンビ”のイヴ。
気立てがよくスタイル抜群な”幼なじみ”の江火野さん。
そして、実はタロウ同様に初恋ゾンビが見えており、自身が女子であることを周囲に隠して生活している“男装女子”の指宿くん。
『初恋ゾンビ』の3人のヒロインは全員が物凄く魅力的です。
一種の“ハーレムもの”と言える作品かもしれませんが、主人公のタロウが常に理知的で、周囲を思いやれる性格なので、読んでいてイヤな感じが全くしないところが大きな特徴だと思います。
しかし3人のヒロインの恋が同時に成就することは決してありえません。特に、指宿くんとの恋が成就することはイヴの消滅を意味し、江火野さんと恋が成就した場合は（初恋が忘れられたことを意味するので）イヴは眠りにつくことになります。そのため、最終回に向けて非常に難しい舵取りを求められる作品でしたが、本作は納得度の高いしっかりとしたフィナーレを迎えます。
筆者は個人的には、『初恋ゾンビ』は高橋留美子先生の作品を彷彿させるような、とてもサンデーらしい青春ラブコメの傑作だと思っています。特に、タロウに対する恋心を燻らせながらも、なかなか素直になれず自分が女子であることも言い出せないツンデレ男装ヒロイン・指宿くんが持つインパクトは凄まじいものがあります。5巻までが無料開放されている今こそ、是非ともたくさんの方に読まれてほしい名作なのです！
