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【今週のPowerPush】罠にはめられ、ロンドン市長殺害事件の容疑者にされてしまった南アジア系の青年・アルは、冤罪事件に関わった過去を持つ刑事・エリスと共に真犯人を探し始めるが、さらなる陰謀が待ち受けており……『ロスト・ラッド・ロンドン』はまるで海外ドラマのような新感覚クライムサスペンス!

 

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シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)1巻より

NetflixAmazon Prime Videoのようなサブスクリプションの映像サービスのおかげで、気軽に海外ドラマを見ることができる世の中になりました。軽い気持ちで観始めて止められなくなってしまった経験、多くの方がしたことあるのではないでしょうか。日本とは異なる文化・習慣切れ味の鋭いセリフよく練られたストーリー…といった魅力が海外ドラマにはあると思います。

 

本日ご紹介する作品、1月12日に1巻・2巻が同時発売されたばかりの『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)は、そんな「海外ドラマの魅力的な要素」を詰め込んだような漫画作品です。

 

 

※『ロスト・ラッド・ロンドン』の第一話はこちら↓から読むことができます。

comic-walker.com

 

 

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シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)1巻より

アル・アドリーは、ロンドンに暮らす大学生。南アジア系の彼は、物心つく前に養子に出され、現在の両親に引き取られた過去があります。血の繋がらない両親に遠慮しているのか、それとも単にそういう性格なのか、アルは同級生とルームシェアをしながらアルバイトに精を出し、自分の学費を稼ぐ青年なのでした。

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シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)1巻より

その頃、お忍びで外出していたロンドン市長が地下鉄の車内で刺殺される事件が発生。犯行を目撃した人がおらず、政治的理由なのか、私怨なのか、それとも通り魔が市長と知らずに凶行に及んだのか……真相は闇の中に包まれていました。

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シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)1巻より

犯行と同じ時間帯に同じ路線の地下鉄を利用していたアル。同居人のカラムに「一緒に乗ってたかもな 犯人」と言われますが、アルは何も目撃してはいませんでした。

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シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)1巻より

本作のもうひとりの主人公、レニー・エリスは老眼鏡をかけた初老の刑事。階級は警部です。エリスには、20年前に冤罪事件に関わり、勾留中の被疑者が自殺したという過去がありました。当時のエリスは捜査方針を決定できるような立場ではありませんでしたが、「それでもクビを懸けて再捜査を訴えるべきだった」という強い後悔を持ち続けているのでした。

 

市長殺害から2日後。アルが、一昨日(事件発生当日)に着ていた上着を手に取ると、ポケットの中に身に覚えのない”何か”が入っていることに気づきます。

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シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)1巻より

それは、血まみれのナイフでしたロンドン市長刺殺事件の凶器がまだ見つかっていない、とテレビのニュースが繰り返し伝えている最中、犯人ではないアルのコートのポケットから、なぜかそれは見つかったのでした。

 

その時、アルの部屋をエリス警部が訪ねてきます。といっても、この時点でエリスはアルを容疑者だと思っているわけではありませんでした。同じ時間帯に同じ地下鉄を利用していたアルが、何か目撃したり気づいたりしたことがあったのではないかと、聞き込みにやってきたのでした。

 

そのエリスに対し、アルはポケットの中からナイフが見つかったことを正直に話します

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シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)1巻より

「未発見の凶器がこれだとすると きみの立場はかなり微妙だな」「容疑者ってことですか」「そうなるな」

凶器が発見されたことで、アルは第一容疑者として扱われることになるはずでした。しかし「俺じゃない」と呟くアルの姿は、エリスの脳内で20年前の冤罪事件の被疑者と重なったのでした。

 

「アル きみはなぜ正直に そのナイフのことを俺に話そうと思った?」エリスは探りを入れるようにアルに聞きます。アルの答えは「どうしてかな そうするのが正しいような気がしたんです」というものでした。

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シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)1巻より

直感的にアルが犯人ではないことを確信したエリス。しかし、このままアルを警察署に連行した場合、容疑を覆すことはかなり難しくなります。ロンドンの市長が殺されたという特殊な事件であり、南アジア系のアルが白人の市長を刺殺したと報じられることで世論が苛烈になることも予想されました。

 

エリスはアルにこう持ちかけます。「今日俺がここに来たことは誰も知らん だからこそ間に合う 真犯人を見つけるんだよ」と……。

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シマ・シンヤ『ロスト・ラッド・ロンドン』(KADOKAWA)1巻より



 

 

『ロスト・ラッド・ロンドン』は、シマ・シンヤ先生が月刊コミックビームで連載されている作品で、つまり「日本の漫画作品」と言っていいと思うのですが、もし著者名や掲載誌が伏せられていたら「海外の漫画作品の翻訳」と思ったかもしれません。それは単に舞台がロンドンだからというだけではなく、絵柄のスタイリッシュさや翻訳調のセリフの切れ味がそう思わせるのではないかという気がします。

 

もし同じ内容の事件を描く物語でも「地下鉄丸ノ内線の中で政治家が刺殺されて…」だったら作品全体の印象が全然変わっていたと思いますし、日本人キャラだと芝居がかって見えるようなセリフでも本作の中ではしっかりなじんでいて、むしろもっともっと読みたくなるのがすごいです。

 

アルとエリスが二人で真犯人探しを始めますが、そこからのストーリーも緊張感に溢れるもので、次々と新しい展開が起こっていくのはまさに海外ドラマさながら。「なぜ、アルが罠にはめられたのか?」という理由は2巻までで少し見えてきましたが、刺殺された市長の足元に落ちていた紙飛行機(作中に何度も繰り返し登場するモチーフです)が持つ意味もまだわかりませんし、犯人は誰なのか、アルは冤罪を免れることができるのかという興味は尽きません。1冊につき6話収録なので、今後は「半年に一冊」ペースでの刊行になっていくのだと思いますが、正直、続きが待ちきれない作品です。早く3巻が読みたい!