【今週のPowerPush】新潟・燕三条の伝統工芸品「鎚起銅器」の若き職人・修にプロポーズされた女子大生・しいな。”職人の家に入る”って一体どんな感じ? 真面目でひたむきな青年と、ピュアな性格の金髪ギャルとの手さぐりな婚約生活を描く『クプルムの花嫁』は、最高にかわいい二人のハートフルストーリー!
本日ご紹介する『クプルムの花嫁』(KADOKAWA、1巻まで発売中)は、冒頭10ページ目ぐらいでいきなりプロポーズが描かれる作品です。「明らかに両想いなのになかなか付き合わない」ような恋愛漫画も世間には多くある中、そんなにハイペースで大丈夫なのでしょうか?
大丈夫なのです。なぜなら『クプルムの花嫁』は、「二人が知り合って、お互いに好意を抱くようになるまで」よりも「既に付き合っている二人が、新たな段階に進む」ことの素晴らしさを重点的に描いた作品だから。そして何より、主人公の二人がめちゃくちゃかわいいので「付き合うかどうか?」のハラハラ感なんてもはや不要なんですよね。そんな『クプルムの花嫁』をこの記事では詳しく紹介していきます。
※『クプルムの花嫁』の第一話はこちら↓から読むことができます
新潟県、燕三条地域(「燕三条市」という自治体があるわけではなく、「燕市」と「三条市」を合わせた呼称なのだそうです)。この地域は、全人口の3割が製造業に従事する「職人の町」。
大学1年生の犬町 しいなは、燕三条の伝統工芸品「鎚起銅器」の職人である恋人・富川 修に会うため、工房にやってきていました。
「鎚起銅器」とは、1枚の銅板を金槌などで何度も叩いて変形させ、ヤカンや急須、グラスなどといった日用品の形を起こしていく、職人の手作業によって作り上げられる工芸品。一日中、銅板を叩き続ける恋人・修のことを、しいなは「妖怪銅叩き」と呼ぶほどでした。(ちなみに「クプルム」とはラテン語で「銅」のことだそうです)
休日にもかかわらず、工房でグラスを作っている修。それは「引き出物」だと修は言います。修は恋人であるしいなとの結婚を考え、引き出物を自ら作っていたのでした。
「結婚しないか?」修のその言葉に、思わず工房から逃げ出してしまうしいな。自分もいつかは……とは思っていても、いざ目の前にその言葉を突きつけられると慌ててしまいます。修の家は格式高い家ですし、「職人の家」で妻として過ごす日常も、しいなにはまだ上手く想像できません。
大切に使えば、100年でも人の生活に寄り添うことができる鎚起銅器。しいなとなら、そのように長く寄り添う関係になれる、と修は思っています。しいなもその気持ちは嬉しく思うのでした。
色々あって、ふたりはひとまず「婚約」を果たします。しいなが大学を卒業するまでに、修も一人前の職人になって、そして結婚する……そんな約束を交わしたことで、二人の日常は少しずつ変わっていくのでした。
『クプルムの花嫁』は全編にわたって尊さで溢れかえっているような漫画ですが、どこが尊いかを野暮と知りつつ言語化してみると「しいなと修が全然似ていない」ところではないかと思います。しいなは職人としての技術を学んだ経験はないですし、修の創作上の悩みに直接アドバイスできるわけではありません。しかし、そんなしいなだからこそ修の支えになれるということが繰り返し描かれるのが実に素敵です。逆もまた然りで、修の何気ない行動のひとつひとつがしいなを喜ばせたりします。似たもの同士のカップルもいいですが、全然タイプの違う二人が、それゆえにお互いを支え合うことができるというのは実にいいものです。
筆者が特に好きなエピソードを一つ挙げると、他県からの観光客が工房の見学に訪れて「ヤカンが15万円!?」「今どき100均でも買えますよ」とちょっと失礼なコメントを発し、険悪なムードになってしまった時。その観光客に対して、しいながごく自然に「製品」「職人」「工房」の魅力を説明し、納得してもらう(そして製品を買ってもらう)……という回があります。この時、ただ理詰めで、言葉だけでその魅力を伝えるわけではないところに、しいなというキャラクターの良さが詰まっています(し、修が彼女を好きになった理由もわかる気がしました)。
「若き職人とその婚約者が人生の第一歩を踏み出すストーリー」という意味ではどことなく”朝ドラ”のような趣もある本作。そんな安定感のあるストーリーの上に、修としいなという現代的なかわいいキャラクター(絵柄もかわいい!)が乗ることによって、抜群におもしろい漫画が誕生しています。本作はドラマ化、映画化しそうな予感もひしひしと感じます。今年1月に第1巻が発売されたばかりの本作、是非チェックしてみてはいかがでしょうか。