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【週末イッキ読み推奨】あの”村上春樹”の最新作の装画を担当した漫画家・豊田徹也先生をご存知ですか? 2003年のデビュー以来、たった3冊の単行本しか出版されていないにもかかわらず、国内外の漫画好きから圧倒的な支持を受け続ける豊田徹也先生の静謐な世界をご紹介します

 

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豊田徹也『珈琲時間』(講談社)より

2020年6月、衝撃のニュースが報じられました。3年ぶりに刊行される村上 春樹の新作小説『一人称単数』の装画を、漫画家・豊田 徹也先生が担当するというのです。

豊田徹也が村上春樹の短編小説集の装画を担当「うれしいというより厳しい体験」(コメントあり) - コミックナタリー

 

豊田先生といえば、漫画好きから圧倒的な支持を受ける人気漫画家です。一方、2012年の短篇集『ゴーグル』以降単行本が出ておらず、また2016年以降は商業誌での活動もないことから、新作の発表が待ち望まれていました。

 

漫画好きにとっては”村上春樹の新作”以上の大ニュースだった、豊田徹也先生の復活。本日は豊田徹也先生が2003年のデビューから現在までに刊行した3冊の単行本をご紹介します。

 

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豊田徹也『珈琲時間』(講談社)より

村上春樹(敬意を込めてあえて敬称を省略します)は、自著の装丁にこだわる作家として知られています。決してデザイナー任せにすることなく打ち合わせを重ね、時には自らカバーのデザインをすることも(『ノルウェイの森』など)。

 

また、そんな村上春樹の最新作の装画は、文藝春秋の編集者から……つまり村上春樹サイドから豊田徹也先生に依頼して描かれたものだと記事にはあります。豊田先生の単行本はすべて講談社から出版されており、豊田先生に注目が集まっても文藝春秋に直接的な利益はないため、出版社側が起用を希望する商業的理由はありません。よって、おそらく豊田徹也先生の起用は村上春樹本人の希望ではないかと思われるのです。

 

一人称単数 (文春e-book)

一人称単数 (文春e-book)

 

 

そんな豊田先生は寡作な漫画家として知られ、2003年にアフタヌーンの新人賞「四季賞」の四季大賞を受賞してデビューして以降、現在までに3冊の単行本しか発売されていません。しかし、その3冊ともが傑作なのです。この3冊を刊行順にご紹介します。

 

①『アンダーカレント』(2005年)

アンダーカレント  アフタヌーンKCDX

アンダーカレント アフタヌーンKCDX

  • 作者:豊田 徹也
  • 発売日: 2005/11/22
  • メディア: コミック
 

 

4年間の交際期間を経て結婚し、結婚生活も4年が過ぎたというタイミングで突然、夫が失踪した関口 かなえ。何の問題もないはずだった夫婦関係はなぜ破綻したのか。夫の帰りを待つうちに、かなえは自分の心の奥底を流れる底流(undercurrent)のような感情に気づいていきます。

 

2004年10月から『アフタヌーン』誌で連載された本作は、谷口 ジロー先生が「今、最も読まれるべき漫画はこれだ! すでに四季賞受賞作で確信していたその物語性と演出力に驚く。」(オビ)と絶賛した全1巻の長編作品です。銭湯の経営を手伝う、探偵の山崎などサブキャラクターも秀逸で、静謐な作品でありながら圧倒的な質感をもって読者の心を揺さぶります。まるで実写映画を……ミニシアターでかかる邦画、さらにその中でも選りすぐりの傑作を観ているかのような、至高の作品です。(いま実写映画化されたら山崎役は大泉洋かなあ…)

 

②『珈琲時間』(2009年)

珈琲時間 (アフタヌーンコミックス)

珈琲時間 (アフタヌーンコミックス)

 

 東京のカフェで見知らぬ女性にコーヒーをたかる謎のイタリア人。二杯のコーヒーを挟んで、拳銃を突きつけ合う二人のヤクザ……など「コーヒー」が登場する17の短篇を収録した短篇集。『アンダーカレント』と同様に人の心の奥底を掬い取るような静かな作品もあれば、死ぬほどバカバカしいコメディ(「ロボット刑事」とか…)もあり、バリエーション豊かな超短編の数々を楽しめます。

 

豊田徹也先生の作品で唯一電子化されている作品なので入手しやすく、読みやすさという意味でも「最初の一冊」におすすめかもしれません。みんな大好き・『アンダーカレント』の山崎が再登場するのも見どころです。

 

『ゴーグル』(2012年)

ゴーグル (KCデラックス アフタヌーン)

ゴーグル (KCデラックス アフタヌーン)

  • 作者:豊田 徹也
  • 発売日: 2012/10/23
  • メディア: コミック
 

 

四季賞受賞作「ゴーグル」や、その前日譚「海を見に行く」など6作品を収録した短篇集です。オビには「珠玉もそうじゃないのもとにかく描いたものあるだけ収録した」短篇集、とありますが、いやいやナンセンス系も含めて全部珠玉の作品じゃないですか! とこのオビを書いた編集者を問い詰めたくなります。笑

 

個人的には最後の「とんかつ」という短篇が本当に好きで……ちょっと美味しんぼみたいな話ではあるのですが、何とも言えない余韻を残す作品です。そしてこの『ゴーグル』にも探偵の山崎が再々登場する短篇があるのが嬉しかったりするのでした。

 

 

フランスの記者と批評家が選出するACBD賞(Association des Critiques et journalistes de Bande Dessinee)を受賞するなど、国内外で評価の高い豊田徹也先生の作品。失われた家族との関係性について描いた作品が多く、村上春樹作品との共通項も多々あるため、装画を担当することになったのも頷けます。『アンダーカレント』や『ゴーグル』は電子化されておらず、正規のルートで入手するのが難しいかもしれませんが、本屋さんや古書店で見かけたら是非手にとっていただきたい傑作です