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【今週のPowerPush】放課後、唇に触れた絵の具からは破滅の味がした……大阪の美術高校で”承認欲求”を満たすために絵を描いていた蓮二は、評価を気にせず型破りな創作をする少女・ナオミと出会い、少しずつ影響を受け、変わっていく。思春期の自意識を浮き彫りにする鮮烈な青春物語『放課後のサロメ』

 

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星窪朱子『放課後のサロメ』(双葉社)1巻より

人間は社会的動物である」という名言を、実はアリストテレス言ってないそうですが、しかしまあ実際のところ、我々はどうしようもなく社会的動物だと思います。少なくとも自分の半径数メートルの世界では、「褒められたい」「評価されたい」「認められたい」。誰も自分のことを認めてくれない場所に身を置いていたら実際辛い。言葉にして認めてしまうのは何だかちょっと気恥ずかしいですが、「そういうものだ」と開き直ってしまうしかないのではないでしょうか。

 

では、アートを制作する人の心境はどうなのでしょう。きっと、「評価されたい」という邪な(?)動機のみで作品を創っている人ばかりではないと思います。「素晴らしい作品をつくりたい」「自分の中にあるイメージを形にしたい」そんな衝動こそが彼らを動かす最も大きな動機……なのではないかと思います。

ならば、「学校という『社会』」の中で「アートを制作している」学生だったら? 本日ご紹介する作品、今月第1巻が発売されたばかりの『放課後のサロメ』(双葉社)は、美術高校に通う少年少女の「自意識」と「衝動」を鮮明に描き出している作品です。

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星窪朱子『放課後のサロメ』(双葉社)1巻より

喜多 蓮二は「大阪府立芸術高等学校」という”美術高校”に通う一年生。体が弱かった蓮二は、小学生の頃に絵画コンクールで賞をとったことをきっかけに、美術の道を志すようになりました。絵が唯一の特技である蓮二は、同級生に対して「評価とか別に気にしてない」などと口では言っていますが、実際のところは「褒められたい」「評価されたい」という承認欲求を満たすことがモチベーションになっているのでした。

 

入試の実技試験を一位で突破した蓮二は、その後の学校生活においても同級生から一目置かれる存在となり、「自分の居場所を見つけた」と思っていました。ところが、家庭の事情で入学当初は学校を休んでいたため、少し遅れてやって来た新入生・林原 ナオミが、蓮二の心をかき乱すことになります。

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星窪朱子『放課後のサロメ』(双葉社)1巻より

蓮二とナオミの最初の出会いは、放課後の美術倉庫室。誰もいない倉庫で、黒い絵の具にまみれた"首だけの石像"に口づけをしているナオミを、蓮二は目撃してしまったのです。

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星窪朱子『放課後のサロメ』(双葉社)1巻より

まるで、首を斬り落とされた預言者カナーンに口づけするサロメのような光景。実は彼女は、ただのゴミ置き場になっていた倉庫を「自由に使っていい」という許可を教師から得て、「自分の工房」としてそこで創作活動を行っていたのでした。

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星窪朱子『放課後のサロメ』(双葉社)1巻より

授業中も、型破りな発想で課題に取り組むナオミ。セオリーを無視しているため、必ずしも点数にはつながらない場合もありますが、彼女に確固とした才能と自信があることは明らかでした。そして、どう努力してもナオミには勝てなさそうだと感じた蓮二が、次に思ったことは「林原さんが放課後にしてることをみんなが知ったら、僕の立場はどうなるんや」ということでした。

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星窪朱子『放課後のサロメ』(双葉社)1巻より

これ以上、ナオミに同級生の関心が集まることを避けたい蓮二は、ナオミの放課後の活動を手伝うことを申し出ました。そうすることで、蓮二以外の誰にもナオミの活動のことを知られないようにしたのです。放課後、二人きりの秘密の活動は、最初はそのような蓮二の打算からスタートしたのでした。

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星窪朱子『放課後のサロメ』(双葉社)1巻より

「自分のために描いてんねんから それ以外に目的なんてない」

蓮二と同じような言葉を口にするナオミ。しかし蓮二と違って、それは本心のようでした。

「芸術は評論と切り離せない」「『絵を描く』ってことは常に評価ありきでしょ」

クラスメイトのその言葉も、決して口先だけのものではなく、芸術活動における重要な本質と言っていいでしょう。

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星窪朱子『放課後のサロメ』(双葉社)1巻より

中学校までは、同級生を見返したい、褒められたいといった動機が先に立っていた蓮二。しかしナオミや他のクラスメイトと切磋琢磨する環境の中で、蓮二は次第に、自分の中にある動機が決してそれだけではないことに気づいていきます。

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星窪朱子『放課後のサロメ』(双葉社)1巻より

高校時代の経験は、その後の人生の方向性を大きく決めることがあります。そして思春期の敏感さは、大人になっていくにつれて徐々に失われていくものでもあります。人一倍感性が鋭く、そして常に理性と衝動の間で揺れ動いている彼らが、同じ学校で互いにぶつかりあうことでどのような化学変化が起きていくのか……『放課後のサロメ』1巻は、読んでいてゾクゾクするような物語でした。2巻以降のストーリーもとても楽しみです。 

放課後のサロメ : 1 (アクションコミックス)