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【週末イッキ読み推奨】沙村広明先生の作品は、『無限の住人』や『ブラッドハーレーの馬車』のような「シリアス系」だけじゃない! 抱腹絶倒の名作『波よ聞いてくれ』にハマったあなたが次に読むべき、沙村広明先生の「コメディ系」作品4選!

 

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沙村広明波よ聞いてくれ』(講談社)8巻より

いやあ、とうとう出ましたね。波よ聞いてくれの8巻が。

波よ聞いてくれ』は、札幌でスープカレー屋の店員をしながらド深夜のラジオDJとして奮闘する、破天荒すぎる女子・鼓田 ミナレの生き様を描くコメディ。今年、アニメ化もされました。作者は言わずと知れた沙村広明先生です。

 

沙村広明先生といえば、代表作は二度アニメ化され、木村拓哉さん主演で実写映画化もされた時代劇作品無限の住人。他にも少女たちの陰惨な運命を描いた『ブラッドハーレーの馬車』、1930年代のソ連から始まる歴史ロマン『春風のスネグラチカ』、裏社会で戦う美女たちのバイオレンスアクション『ベアゲルター』など、高い画力でシリアスな世界観を描き出す作品が多くあります。

 

ですが、その一方で『波よ聞いてくれ』のように、主に現代の日本を舞台にして、大量の小ネタを交えつつ、真人間として生きていくことができない人々をおもしろおかしく描いた、サブカル寄りのコメディ作品の傑作を多く生み出しているのも沙村先生の特徴。本日は、沙村先生のいわば”裏芸”ともいえるコメディ作品を4作品、ご紹介します。

  

①『おひっこし』(全1巻、講談社

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沙村広明『おひっこし 竹易てあし漫画全集』(講談社)より

『おひっこし』は、2000年から2001年にかけて、『アフタヌーン・シーズン増刊』という季刊誌に連載されていた作品です。

 

大学生の遠野 禎は先輩の赤木 真由に想いを寄せていますが、真由には青年海外協力隊ザンビアに派遣されている恋人がおり、禎は全く男として見られていません。禎の幼馴染である小春川 玲子はそんな二人を複雑な気持ちで見ており……というような青春群像劇で、八王子や橋本や南大沢あたりで暮らす大学生たちのダラダラした感じのモラトリアム物語が怒涛の小ネタと共に描かれていきます。

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沙村広明『おひっこし 竹易てあし漫画全集』(講談社)より

途中のイタリア人の回想シーンとかキャバクラでの飲酒対決のシーンとかは本当に必要だったのか!? なんてことはさておき、第4話の、夕暮れ時の団地で禎と玲子が対峙するシーンは漫画史に残るレベルで美しく、切ないのです。

 

その他、「これは一体何を読まされているんだ」と思うような内容なのにグイグイ読まされてしまう読切作品「少女漫画家無宿 涙のランチョン日記」と、沙村先生が京都の心霊スポットに出かける旅行記「みどろヶ池に修羅を見た」が同時収録されています。

ちなみに……筆者は単行本化されてから初めて読んだのですが、雑誌掲載時は「沙村広明」ではなく竹易てあしという名義で掲載されていたのだとか。

 

おひっこし (アフタヌーンコミックス)

おひっこし (アフタヌーンコミックス)

 

 

②『シスタージェネレーター』(全1巻、講談社

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沙村広明『シスタージェネレーター 沙村広明短編集』(講談社)より

『シスタージェネレーター』は、2003年から2009年にかけて発表された短編を集めた珠玉の短編集です。

 

巻頭に置かれた短編は、父親と家政婦との関係を怪しむ女子高生が驚愕の真実にたどり着く「久誓院家最大のショウ」。『波よ聞いてくれ』の南波 瑞穂の高校生時代がさりげなく描かれているところもポイントですね。

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沙村広明『シスタージェネレーター 沙村広明短編集』(講談社)より

その他、西部開拓時代のアメリカで人生を賭けた勝負に挑む少女を描いた「エメラルド」第一次大戦末期にドイツの幼い兄妹が辿った過酷な運命を描く奇譚ブリギットの晩餐」といった本格的な作品から、女子高生がだらだらダベるだけの連作短編「制服は脱げない」、沙村先生が九蓮宝燈を上がった時の思い出を描く麻雀エッセイ「下層戦略 鏡打ち」、同人誌に寄稿した超短編「青春じゃんじゃかじゃかじゃか」、漫画家を目指す青年と同居する女子中学生を描いた問題作「シズルキネマ」など、幅広い作風の短編が収録されたお買い得な一冊です。

 

名言、あるいは迷言なのに妙に印象的なフレーズが多く登場するのが沙村先生のコメディ作品の特徴のひとつですが、この短編集は特にそれが多いような気がします。個人的には「人のやる事なす事に「中二」とか言って悦に入ってる連中が一番何も生み出せない層なんだよ! バーーカ!!」というコマが大好きです。額装して自室の壁に飾っておきたいぐらい。 

 

③『ハルシオン・ランチ』(全2巻、講談社

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沙村広明ハルシオン・ランチ』(講談社)1巻より

ハルシオン・ランチ』は、2008年の『good!アフタヌーン』創刊号から連載されていた、ヒロインが色んなものを食べたり吐いたりする異色のSFコメディ。「吐き分け」「吐き直し」など、おそらくこの漫画以外では使われることがない特有の用語が次々飛び出します。

 

信頼していた部下に2000万円を持ち逃げされ、経営していた会社が破綻。社長という立場から、今日の食事にも困窮する無職のおっさんへと一気に転落し、途方に暮れていた化野 元、40歳。そんな彼の隣に突然現れた謎の美少女・ヒヨスは、不思議なお箸を使って人間でもリヤカーでも何でも食べてしまう宇宙人だったのです!

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沙村広明ハルシオン・ランチ』(講談社)1巻より

理系に強いヤンキー女子・メタ子、ヒヨスの仲間である宇宙人・トリアゾなど、異様にアクの強いキャラたちが繰り広げる大騒動は、やがて全世界を揺るがす事態へと発展していきます……などと書くと何かSFサスペンス大作っぽい雰囲気にも見えますが、全編通じてメン・イン・ブラック』よりもさらにふざけてる感じだと思っておけば間違いありません。

ちなみに、宇宙人トリアゾと、そのパートナーである沖 進次は、その後『波よ聞いてくれ』にも出演することになります(トリアゾは、阿曽原 律子という役名での出演)。この手塚治虫のようなスターシステムもファンには嬉しいんですよね。

 

 

 ④『幻想ギネコクラシー』(全2巻、白泉社

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沙村広明『幻想ギネコクラシー』(白泉社)1巻より

『幻想ギネコクラシー』は、白泉社の『楽園』誌に連載された1話6ページのショートコメディを中心に編まれた全2巻の短編集です。

 

北国で「かまくら」を作るために生み出された人造人間カマクリアンの物語とか、アンコウから進化したアンコウ人類の一族のサーガとか、「よくそんな状況を思いつくなあ!」と心底驚いてしまうような作品が1冊あたり10作品以上収録されている、個人的にはめちゃめちゃ満足度の高いシリーズです。大企業の社長の屋敷で、果物のプールに浮かび、果物だけを食べ続けて生きている少女、その正体は――是非コミックスで確かめてください。

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沙村広明『幻想ギネコクラシー』(白泉社)1巻より

ちなみに「ギネコクラシー」とは女性上位・女権政治を指す言葉なのだそうです。谷崎潤一郎の強い影響を受け、強い女性(と被虐的な男性)を描き続けている沙村先生らしい題名だと言えるのではないでしょうか。そういえば、本日紹介した4作品も、その全てに目つきの悪い美人が出てきますね。最高です。最高……。

幻想ギネコクラシー 1 (楽園コミックス)

幻想ギネコクラシー 1 (楽園コミックス)

 
幻想ギネコクラシー 2 (楽園コミックス)

幻想ギネコクラシー 2 (楽園コミックス)