【今週のPowerPush】”ある理由”で刀を持つことができず、落ちぶれていく武士。そんな男の元に現れたのは、美しく、謎の多い花嫁。『累 -かさね-』の松浦だるま先生の最新作『太陽と月の鋼』第1巻は魅力と伏線に満ち溢れていて期待大！
まず、この表紙の美しさに息を呑みました。2020年10月30日発売、松浦だるま先生の『太陽と月の鋼』（小学館）、第1巻です。
松浦だるま先生といえば、サスペンスと演劇の魅力が融合し、実写映画化もされた名作『累 -かさね-』（講談社、全14巻）の作者です。その松浦先生が、短期集中連載『いまかこ』（講談社、全1巻）を経て、新たに臨む長編連載ですから、期待せずにはいられませんが……『太陽と月の鋼』第1巻は、期待に違わぬ、魅力と伏線に満ち溢れた面白さでした！
破れた障子。ボロボロの畳や襖。次のページでは割れた食器を使っているところが描かれます。まだ何も言葉を発していない冒頭のシーンで、既にこの男の生活が苦しいことがわかります。彼の名は竜土 鋼之助。亡き母親の、形見の着物を質に出すほど貧窮に喘ぐ武士です。
なぜこんなに貧しいかといえば、彼は”ある理由”で刀を持つことができないのです。そのため警固の任務から罷免され、無役（無職）になってもう四年目。周囲の人間は、刀を持てないのを「刀が怖いから」だと解釈し、彼のことを嘲っています。
絶望し、死のうとした鋼之助を何者かが救い出します。「こんなところで死なせませぬ。私たち、まだ出逢ってもいないのですから。」と――。
この夜から、鋼之助の運命が好転し始めます。縁談が突如として飛び込んできたかと思えば、目も眩むような美女が百両の支度金を持って現れます。
勢い、婚礼が成立したものの、「月」と名乗るその女を鋼之助は怪しみ（そりゃあ怪しいですよね）、離縁したいとまで言い出しますが……。
『太陽と月の鋼』の最大の魅力、それは（主人公である鋼之助には申し訳ないですが）ミステリアスな美女・月にあると言えます。美貌と資金を併せ持ち、かいがいしく鋼之助に尽くしてくれる月ですが、どうやら色々と秘密がありそう。鬼の仮面の少年が言った「同類」という言葉の意味は？ 月を狙い、京からやってきた男が使う怪しい技は一体何？ 読めば読むほど気になって、加速度的に引き込まれていきます。第1巻ではまだ明らかにならない謎も多いので、早く続きが読みたい！（筆者は続きが気になりすぎて、普段読んでいない『ビッグコミックスペリオール』誌を電子で買ってしまいました）
主人公である鋼之助も実に憎めない男です。常に「武士らしくありたい」と願い続けている鋼之助ですが、それは単に「刀を持つことができないから」というだけの理由ではありません。幼少期に起こった”ある出来事”が彼を苦しめ、「己は武士ではない」という意識に囚われ続けているのです。果たして鋼之助は”ある理由”を乗り越え、刀を握れるようになるのか。そして自らのことを「立派な武士だ」と思える日が来るのでしょうか。それも、第2巻以降へと続いていく物語の中で描かれていくことでしょう。早く読みたい！
そして……本当に月がかわいい……めっちゃかわいい……ただ見た目が美しいというだけではなく、しっかりと芯があり、鋼之助のことを充分に理解して、支えてあげるところが素敵すぎます。だんだんとそのことに気づき、月の気持ちに応えていくようになる鋼之助もなんだかんだで良い夫。もし今後謎が解き明かされたり、鋼之助のトラウマが克服されたりした後で、ただ月が鋼之助と延々イチャイチャし続けるだけの漫画になったとしてもそれはそれでアリだと筆者は思ってしまうのでした。
