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【知られざる名作】一学期の終わり、ラブレターでの告白を断った葉月。しかし、相手の男子のことを、知れば知るほど気持ちが募っていって……高校生のピュアな初恋を丁寧に描き出した、増田里穂『スタンドバイミー・ラブレター』(全1巻)は、疲れた心を癒やしてくれる優しい物語

 

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増田里穂『スタンドバイミー・ラブレター』(集英社)より

「漫画を読む」という趣味は、なにげにメンタルをえぐられる時も多いものですよね。推しが死んだり、連載が打ち切られたり、逆になかなか連載が再開しなかったり……楽しい時ばかりではありません。

 

今日ご紹介する作品、増田里穂先生の『スタンドバイミー・ラブレター』(集英社、全1巻)は、そんな疲れた心に染み渡ってくるような、高校生のピュアな初恋を描いた優しい物語です。全1巻で綺麗に完結しており、非常に読みやすいので、是非おすすめしたい作品なのです。

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増田里穂『スタンドバイミー・ラブレター』(集英社)より

相川 葉月は、高校一年生の女子。同級生の泉 周平から、今どき珍しい「ラブレター」を受け取りますが、恋愛への憧れやときめきよりも「不安」の方が大きく、一学期の最終日にお断りの返事をします。明日からは夏休み、しばらくは顔を合わせることもないと思っていたのですが……。

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増田里穂『スタンドバイミー・ラブレター』(集英社)より

夏休みといえども、夏期補講とかがあるのが高校生の現実。お断りの翌日、さっそく学校で偶然出くわしてしまった二人は、ある出来事をきっかけに、お互いのことを「友達」と認識するようになります。

部活をしている時の周平、クラスメイトと話している時の周平、花火大会からの帰り道で出会った周平……「友達」になってから、ことあるごとに周平の存在を意識するようになってしまった葉月は、周平の人となりを少しずつ知っていき、だんだんと特別な感情が芽生えていきます。

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増田里穂『スタンドバイミー・ラブレター』(集英社)より

「たぶん まだ予感 この気持ちが この感情が何なのか わからない でも たしかめたい」

ああっ……初めての恋というものは、なんてピュアで、なんて瑞々しいものなのでしょうか。葉月の中に恋心が生まれ、葉月がその恋心を自覚するまでの心の動きを描いた第1話……もう、これだけで凍らせたスポーツドリンクの最初の一口ぐらい甘いです。筆者は読み返すたび、口から砂糖がザーッと出そうになります。

 

しかし、『スタンドバイミー・ラブレター』が本当の破壊力を見せるのはここからなのです。

たとえば、二人が初めて手をつなぐシーン。「えっ……ここのタイミングなの?」「この状況で行っちゃうの??」「こんなことある!?」と、読者の感情がキャパを超え、次々に溢れ出していきます。この手をつなぐ短いシーンだけでもノーベル漫画賞を授賞したいレベル。

 

加えて素晴らしいのは、『スタンドバイミー・ラブレター』が全1巻できっちり完結する作品だということ。とんでもない引き伸ばしも、当て馬になるためだけに登場する不憫なキャラもいません。純度100%の瑞々しい初恋を、素材の味で過不足なく味わうことができるのが『スタンドバイミー・ラブレター』なのです。

 

我々オトナは、生きていると辛いことが多いです。たとえば推しが死ぬとか、連載が打ち切りになるとか、逆にいつまでも連載が再開しないとか……。そんな疲れた心に『スタンドバイミー・ラブレター』のピュアさは優しく染み込んでくるのです。たとえば『ナウシカ』や『もののけ姫』ではなく『耳をすませば』を観たい夜が誰にでもあると思いますが、そんな時絶対おすすめな漫画が『スタンドバイミー・ラブレター』なのです。まあ違う意味でメンタルをえぐられるかもしれませんが。