【今週のPowerPush】好きな人が幸せならいい、たとえ隣にいるのが自分ではなくても……深夜営業をしている新宿の喫茶店を舞台に、片想いをこじらせきった二人の大学生の日常を描く『真夜中にコーヒー』は、独特な雰囲気が読めば読むほど癖になる、変わり者たちの静かな恋愛ストーリー
「不思議な魅力を持った漫画」に時々出会います。「どんな漫画?」「どこが面白いの?」と訊かれても、とっさに答えが出てこなかったりするのですが、読み返してみてもやっぱり面白いと感じるし、続きも買おうと思うような漫画……「不思議な魅力を持った漫画」とは、言い換えれば「魅力を言葉では説明しにくい漫画」ということかもしれません。
本日ご紹介する作品も、筆者にとってはそんな作品です。が! がんばって言葉で(ブログで)その魅力を説明してみたいと思います。1月20日に1巻が発売されたばかり、さわの将先生の『真夜中にコーヒー』(講談社)です。
※『真夜中にコーヒー』の第一話はこちら↓から読めます
八王子の実家から、都心の学校へ通う大学一年生、浪川 かすみ。彼女には高校生の頃、片想いをしていた先輩がいました。先輩に彼女がいることを知りつつ、別に奪ってやろうと思うでもなく「わたしがどうこうなりたいとかじゃなくて 好きな人が幸せならいいの」というスタンスだったかすみ。……もう2年も会っていないのに、高校時代の同級生から先輩の近況を聞くと今でもドキドキしてしまうほどです。
ある時かすみは、大学の同級生たちと新宿で遊んでいた帰りに終電を逃し、八王子に帰れなくなってしまいます。夜の新宿をさまようかすみは、知らない中年男性に話しかけられ、どこかへ連れて行かれそうになります。
そこに割って入り、かすみを助けたのが、通りすがりの大学生・宮古でした。宮古はこの近くで深夜営業をしている喫茶店「カフェ・オアシス」のバイト店員。宮古は、始発が出るまでの居場所を探すかすみを、「カフェ・オアシス」に案内するのでした。
時刻は真夜中です。「カフェ・オアシス」のお客さんの多くがそうであるように、かすみも席に座ったまま、うとうとと寝てしまいます。そして、ふと目を覚ました時、カウンターの中で宮古が誰かと電話しているところを見てしまいます。
その嬉しそうな表情から、恋人と電話しているものだと思ったかすみ。しかしどうも、そういうわけではなさそうです。少し後でわかるのですが、深夜に宮古の携帯を鳴らす相手は、確かに彼にとっては「好きな人」ではあるのですが、しかし既婚者なのでした。もちろんその結婚相手は、宮古ではありません。
かすみと同じように、「相手に迷惑をかけないように、黙って一方的に好きでいるだけ」という道を選んでいる宮古。そんな二人は意気投合しますが、同じ”片想い仲間”であっても微妙な違いがあることもだんだんわかってきて……
『真夜中にコーヒー』は、決して派手な作品ではありません。淡々とした静かな漫画です。"深夜営業の喫茶店"という、どちらかと言えば寂れた場所が舞台ですし、主役の二人も自分の恋を叶えるつもりがないほどです。いわゆる「リア充」的な思考回路の人が読んだら、良さがさっぱりわからない作品なのではないかと思います。しかし、派手さはなくともなぜか引き込まれて読んでしまうような不思議な魅力があります。
その理由のひとつは、ヒロイン・かすみの独特の存在感にあるのではないかと思います。ビジュアルにも惹かれるものがありますし(目のハイライト、独特ですよね)、世間の「普通」を当たり前に無視しているところが筆者は個人的にすごく好きです。「普通の大学生」「普通の恋愛」をハナっから全然目指していない、何気にロックな主人公だと思います。大抵の大学生は、世界で一番調子に乗っているめんどくさい生き物なのに(偏見)……。
憧れの先輩ともう2年も会っておらず、崇拝に近い感情を心の中でくすぶらせているだけのかすみ。そんなかすみとは違い、片想いの相手(既婚者)と日常的に顔を合わせているもう一人の主人公・宮古の物語も非常に気になります。むしろ第1巻の時点ではこちらの物語のほうがメインかも? 家庭を持っている人が真夜中にわざわざ電話を掛けてくる……そこにも切ない理由があったりします。その理由を聞かされる宮古くんの心中は如何ばかりか。
真夜中の喫茶店、報われない片想い……そういうものでしか得られない成分が世の中にはきっとあると思います。そして筆者は最近徹夜とかもしんどくなってきたので、現実ではなくフィクションからそんな成分を得ていきたいと思っています。『真夜中にコーヒー』、おすすめです。
(なお、物理書籍としての第1巻は未発売のようなので、お求めは電子でどうぞ)