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【知られざる名作】小さな町の小さな映画館「かすみ座」を経営するのは、口は悪いが腕はいい映写技師”トーワ”と、記憶喪失なのに映画のことだけは異常に詳しい青年“もぎり”のワケありコンビ。『明日、シネマかすみ座で』は、過去に囚われた二人と名画座に集まる人々とを描いた人間ドラマの秀作です!

 

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より

突然ですが、「名画座」が好きです。名画座とは、旧作映画を二本立て・三本立てといった形で、安価な値段で上映する映画館のこと。最近はあまり行けていませんが、学生時代にはよく行っていました。

 

やっぱり映画は家で観るよりも、スクリーンの大きさや音響設備に優れた映画館で観たいですし、「お昼すぎに入館して、映画を二本観終わって出てきたら日が暮れていた」というような贅沢な時間の使い方ができるのも個人的に好きなところです。

 

本日ご紹介する作品『明日、シネマかすみ座で』(全3巻、KADOKAWA)は、そんな名画座」を舞台に、あたたかい人間ドラマを描いた名作です。

 

 

※『明日、シネマかすみ座で』の第一話はこちら↓から読めます

comic-walker.com

 

 

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より

東京近郊の小さな町「霞町」で、小さな古びた映画館「かすみ座」を経営している映写技師・トーワ(本名は「十和」なのですが、その名前で呼ばれることを彼は嫌います)は、ある日、劇場の入り口で行き倒れている青年を発見します。

 

記憶喪失で、自分が誰なのかもわからない状態になっているその青年を”もぎり”と名づけ、かすみ座に住ませることにしたトーワ。もぎりは記憶喪失でありながら、映画に関する記憶だけはなぜかしっかりと残っていて、たとえば「博打で身を滅ぼす映画キャラは?」というような質問に対して、該当するキャラ名・作品名をすらすら列挙できるような、ちょっと異常なほどの”シネフィル”だったのです。

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より

一方のトーワは、パチンコ屋や雀荘にばかり出入りし、ピザ屋の新人店員からピザを騙し取ったり、他の名画座の支配人から上映企画を聞き出してパクったりするなどめちゃくちゃガラの悪い男ではあるのですが、映写室に入っている時だけは妙にイキイキとしているのでした。

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より

第一話は、名画座とその近所の銭湯のお話です。ある時、『ゴジラ』『シン・ゴジラ』の二本立てを観に来ていた小学生から、近所の銭湯「かすみ湯」のお風呂が壊れていることを聞きつけた二人。

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より

重油のボイラーが壊れ、薪を使ってかろうじて営業を続けている「かすみ湯」でしたが、ボイラーを修理するお金がなく、店主のおじいさんは廃業を考えています。

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より

トーワは、銭湯の前のスペースを使って野外上映会を開き、その収入でボイラーを修理する計画を立てます。

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より

「フィルムを映写すること」が大好きなトーワですが、実は「映画の内容」にはあまり関心がありません。トーワはもぎりに、この上映会にふさわしい映画を見繕うよう頼むのでした。

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より

迎えた上映会当日。この日のためにレンタルした二台の映写機のうち一台が壊れているという大ピンチが発生しますが、そこでトーワは実在する”ある手法”を使うことで切り抜けようとします。

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より

近所の印刷所やカフェも巻き込んだ宣伝の効果もあり、大盛況になった上映会。そこでかけられた映画は、伊丹十三監督の『タンポポでした。もぎりがその映画を選んだ理由とは。そして、この上映会は「かすみ湯」の店主のおじいさんにどのような心境の変化をもたらすのでしょうか……。

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本郷地下『明日、シネマかすみ座で』(KADOKAWA)1巻より


 

 

 

口の悪い映写技師の”トーワ”、記憶喪失のシネフィル”もぎり”の二人が経営する名画座を舞台に、小さな町のあたたかい人間模様を基本的に一話完結のスタイルで描いていく『明日、シネマかすみ座で』ですが、単なる短編連作ではなく、縦軸となるメインストーリーが2つあります。

 

1つは、記憶喪失の青年”もぎり”の正体と過去をめぐる謎の物語。彼はいったいどんな半生を過ごし、なぜ記憶喪失になってしまったのでしょうか。もぎりは一体なぜ「かすみ座」の入り口の前で倒れていたのか。彼が抱えるようにして持っていたバッグの中に入っていた大金は一体何だったのか。すべての謎は、完結巻となる第3巻で明らかになります。

 

そしてもう1つのメインストーリーは、かつて「かすみ座」に住んでいて、現在は失踪しているトーワの父をめぐる物語です。半ば道楽のように「かすみ座」を経営していたトーワの祖父が亡くなった時、トーワは「かすみ座」を畳むのではなく、意地でも続けていくと決意しました。それは、失踪した父が戻ってくる場所を守るためだったのでしょうか。それとも…??

 

“もぎり”の物語と”トーワ”の物語は、2本の糸が絡み合っていくように、やがて1つの物語へと収斂していきます。このあたりのストーリーのまとめ方は実に見事で鮮やかだと思いました。

 

序盤の「短編連作」のおもしろさと、終盤の「メインストーリー」のおもしろさ、どちらも味わえる全3巻の名作『明日、シネマかすみ座で』。一読の価値はある秀作だと思います。是非チェックしてみてください。

 

 

 

というかこの作品、長さも内容もじつに実写映画化向きの作品だと思うんですよね。何というか、実写化されたらトーワ役は青木崇高さんが演じてそうな感じがすごくあります!(?)