【今週のPowerPush】もうすぐ文化祭! 天文少年のカナメと、北海道から引っ越してきたばかりのアミを中心に、中学生たちのみずみずしい日常を”圧倒的な表現力”で描く! 大石まさる先生の最新作『うみそらかぜに花』は、1ページ1ページが幸福感に溢れる最高の漫画体験です!
今さらですけど、「漫画」って凄いなあと思うのです(ほんと今さらですけど)。基本的に白と黒とグレーだけで構成されているシンプルなものなのに、そこに描かれている「キャラ」や「世界」は本当に実在しているような存在感を放っていますよね。もし『ペンや紙を使って誰かに「本当に実在しているような存在感」を感じさせてください』と言われても、筆者にはそんなこと到底できそうもありません。
本日ご紹介する作品、1月29日に第1巻が発売されたばかりの大石まさる先生の最新作『うみそらかぜに花』(少年画報社)は、まさにそんな「存在感」に満ち溢れた漫画です。ストーリーは比較的シンプルですが、1ページごとの表現力が凄まじく、そこに描かれた「登場人物たち」や「町」がみずみずしい輝きを放って……本当にそこにいるかのような存在感を持っているのです。
※『うみそらかぜに花』の第1話は、作者・大石まさる先生のtwitter↓で読むことができます
「うみそらかぜに花」お試し版 第1話です。お昼ご飯のお供にでも♪ 1/6 pic.twitter.com/8kzTDxvhRq
— 大石まさる (@OhishiMasaru) 2021年1月28日
冒頭1ページ目から、頭に「お花」をつけた姿で登場し、クラスメイトの大爆笑を誘っている二人……天体観測が大好きな少年・カナメと、最近転校してきたいつも元気な少女・アミは、海辺の小さな町で暮らす中学二年生。
彼らが通う「汐待中学校」では、明日から始まる文化祭に向けて、全速力で準備が進んでいるところでした。転校してきてすぐに、女子の中心的リーダー……もとい、「いじられキャラ」としてクラスに定着したアミ。そんなアミとしょっちゅう口喧嘩しながらも、なんだかんだ仲良くしているカナメ。二人はなかなか良いコンビのようです。
学校からの帰り道、「したっけね〜」(検索して調べたら、北海道の方言で「じゃあまたね」「バイバイ」みたいな意味だそうです)の挨拶と共に、別々の道を歩き出す二人。
しかし、その先の道で二人は合流します。実はカナメとアミは、親どうしが再婚したことにより、絶賛同居中なのでした。
しかも、両親(カナメの母親とアミの父親)は、新婚旅行ならぬ「再婚旅行」で1ヶ月半もの間、家を空けているという始末。家事が得意なカナメのおかげで生活は成り立っていますが、中学生の男女が二人だけで暮らしているのでした。そんな状況に置かれたカナメは、リモートで両親に文句を言ったりもしますが……
……そうは言うけど、仲良しな二人。クラスの友達には同居していることは秘密なので、お弁当の内容を別々にして、登校時間も少し離して、今日も中学校へと向かうのでした。
『うみそらかぜに花』の特筆すべき素晴らしさ、それは何と言っても「空気感」に尽きると思います。主人公の二人をはじめ、クラスメイトや大人たちも含め誰ひとりとして”イヤなやつ”が登場しないこともそうですし、何より「絵の力」がめちゃくちゃ強いのです。
「文化祭の前後の中学校の空気」「二人が暮らす家の空気」「海辺の小さな町の自然や動物たち」「回想シーンの北海道での思い出」……凡百の漫画家さんでは描ききれないであろう、そんな情景の隅々までを、この作品は飄々と描き出してしまうのです。
余談ですが……筆者は普段、タブレット(10.2インチのiPad)を横持ちにして、”見開きの左右2ページを同時に表示するような形”で漫画を読むことが多いです。しかし、本作『うみそらかぜに花』を読み終えた後、筆者はタブレットを縦に持ち替えて、”1ページを全面に表示するようなスタイル”にしてもう一度最初から読み直しました。なぜなら、なるべく大きな画面でページの隅々まで見ていたい漫画だと強く思ったからです。
『うみそらかぜに花』のカバー裏のおまけページ(電子版でも収録されています)では、「このマンガに出てくる小動物たち」というページがあります。カナメが飼っているハチワレ猫の「クツシタ」をはじめ、両手両足の指では数え切れないほど沢山の種類の動物たちが1冊の漫画の中に描かれていることがわかります。その多くは、別に描かれなくてもストーリー上は差し支えない動物たちです。しかし、それらがさりげなく描かれていることによって(もちろん動物たちだけではなく、そういう細かい描き込みは他にもたくさんあるのですが)、二人が日常を過ごす世界の解像度が抜群に上がっていくのです。
筆者は個人的には「漫画のおもしろさは画力じゃない」「絵が上手でも下手でも、ネームが面白い漫画が良い漫画」みたいに考える傾向があります。ですが……この『うみそらかぜに花』は、ネームが素敵な上に画力も凄いという二段構えで凄い作品なので、もうひれ伏すしかありません。もう1ページ1ページが楽しくて仕方ありません。読みながら思わずニヤニヤしてしまうほど幸福感に溢れた漫画『うみそらかぜに花』、超おすすめです。個人的には、2021年のナンバーワン作品が早くも決まったかもしれないと思っています。