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【今週のPowerPush】もうすぐ文化祭! 天文少年のカナメと、北海道から引っ越してきたばかりのアミを中心に、中学生たちのみずみずしい日常を”圧倒的な表現力”で描く! 大石まさる先生の最新作『うみそらかぜに花』は、1ページ1ページが幸福感に溢れる最高の漫画体験です!

 

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大石まさる『うみそらかぜに花』(少年画報社)1巻より

今さらですけど、「漫画」って凄いなあと思うのです(ほんと今さらですけど)。基本的に白と黒とグレーだけで構成されているシンプルなものなのに、そこに描かれている「キャラ」や「世界」は本当に実在しているような存在感を放っていますよね。もし『ペンや紙を使って誰かに「本当に実在しているような存在感」を感じさせてください』と言われても、筆者にはそんなこと到底できそうもありません。

 

本日ご紹介する作品、1月29日に第1巻が発売されたばかりの大石まさる先生の最新作『うみそらかぜに花』(少年画報社)は、まさにそんな「存在感」に満ち溢れた漫画です。ストーリーは比較的シンプルですが、1ページごとの表現力が凄まじく、そこに描かれた「登場人物たち」や「町」がみずみずしい輝きを放って……本当にそこにいるかのような存在感を持っているのです。

 

 

※『うみそらかぜに花』の第1話は、作者・大石まさる先生のtwitter↓で読むことができます

 

 

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大石まさる『うみそらかぜに花』(少年画報社)1巻より

冒頭1ページ目から、頭に「お花」をつけた姿で登場し、クラスメイトの大爆笑を誘っている二人……天体観測が大好きな少年・カナメと、最近転校してきたいつも元気な少女・アミは、海辺の小さな町で暮らす中学二年生。

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大石まさる『うみそらかぜに花』(少年画報社)1巻より

彼らが通う「汐待中学校」では、明日から始まる文化祭に向けて、全速力で準備が進んでいるところでした。転校してきてすぐに、女子の中心的リーダー……もとい、「いじられキャラ」としてクラスに定着したアミ。そんなアミとしょっちゅう口喧嘩しながらも、なんだかんだ仲良くしているカナメ。二人はなかなか良いコンビのようです。

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大石まさる『うみそらかぜに花』(少年画報社)1巻より

学校からの帰り道、「したっけね〜」(検索して調べたら、北海道の方言で「じゃあまたね」「バイバイ」みたいな意味だそうです)の挨拶と共に、別々の道を歩き出す二人。

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大石まさる『うみそらかぜに花』(少年画報社)1巻より

しかし、その先の道で二人は合流します。実はカナメとアミは、親どうしが再婚したことにより、絶賛同居中なのでした。

 

しかも、両親(カナメの母親とアミの父親)は、新婚旅行ならぬ「再婚旅行」で1ヶ月半もの間、家を空けているという始末。家事が得意なカナメのおかげで生活は成り立っていますが、中学生の男女が二人だけで暮らしているのでした。そんな状況に置かれたカナメは、リモートで両親に文句を言ったりもしますが……

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大石まさる『うみそらかぜに花』(少年画報社)1巻より

……そうは言うけど、仲良しな二人。クラスの友達には同居していることは秘密なので、お弁当の内容を別々にして、登校時間も少し離して、今日も中学校へと向かうのでした。

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大石まさる『うみそらかぜに花』(少年画報社)1巻より


 

 

『うみそらかぜに花』の特筆すべき素晴らしさ、それは何と言っても「空気感」に尽きると思います。主人公の二人をはじめ、クラスメイトや大人たちも含め誰ひとりとして”イヤなやつ”が登場しないこともそうですし、何より「絵の力」がめちゃくちゃ強いのです。

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大石まさる『うみそらかぜに花』(少年画報社)1巻より

「文化祭の前後の中学校の空気」「二人が暮らす家の空気」「海辺の小さな町の自然や動物たち」「回想シーンの北海道での思い出」……凡百の漫画家さんでは描ききれないであろう、そんな情景の隅々までを、この作品は飄々と描き出してしまうのです。

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大石まさる『うみそらかぜに花』(少年画報社)1巻より

余談ですが……筆者は普段、タブレット(10.2インチのiPad)を横持ちにして、”見開きの左右2ページを同時に表示するような形”で漫画を読むことが多いです。しかし、本作『うみそらかぜに花』を読み終えた後、筆者はタブレットを縦に持ち替えて、”1ページを全面に表示するようなスタイル”にしてもう一度最初から読み直しました。なぜなら、なるべく大きな画面でページの隅々まで見ていたい漫画だと強く思ったからです。

 

『うみそらかぜに花』のカバー裏のおまけページ(電子版でも収録されています)では、「このマンガに出てくる小動物たち」というページがあります。カナメが飼っているハチワレ猫の「クツシタ」をはじめ、両手両足の指では数え切れないほど沢山の種類の動物たちが1冊の漫画の中に描かれていることがわかります。その多くは、別に描かれなくてもストーリー上は差し支えない動物たちです。しかし、それらがさりげなく描かれていることによって(もちろん動物たちだけではなく、そういう細かい描き込みは他にもたくさんあるのですが)、二人が日常を過ごす世界の解像度が抜群に上がっていくのです。

 

筆者は個人的には「漫画のおもしろさは画力じゃない」「絵が上手でも下手でも、ネームが面白い漫画が良い漫画」みたいに考える傾向があります。ですが……この『うみそらかぜに花』は、ネームが素敵な上に画力も凄いという二段構えで凄い作品なので、もうひれ伏すしかありません。もう1ページ1ページが楽しくて仕方ありません読みながら思わずニヤニヤしてしまうほど幸福感に溢れた漫画『うみそらかぜに花』、超おすすめです。個人的には、2021年のナンバーワン作品が早くも決まったかもしれないと思っています。