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【今週のPowerPush】誰にも負けない強い騎士を目指し、中世ヨーロッパの城の中で騎士見習いとして働く男装女子・ロサの修行は、馬の世話・給仕・洗濯など地道なことの積み重ね! 中世の生活を”バトル無し”で描く『騎士譚は城壁の中に花ひらく』は、丁寧な歴史考証に基づき紡がれる日常系成長ストーリー!

 

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

騎士が主人公の漫画」と聞くと、どのような作品を思い浮かべるでしょうか。試しに「騎士 漫画」などのキーワードで画像検索をしてみると、テレビゲーム的な架空の世界を舞台にした、いわゆるハイ・ファンタジーの作品が多いように思われます。

 

本日ご紹介する、ゆづか正成先生の『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ社、1巻まで発売中)はそれらの作品とは一線を画し、現実の中世ヨーロッパに限りなく近い世界での日常生活を描いた物語になっています。主人公・ロサの成長物語であり、随所に織り込まれる中世の生活についての丁寧な描写が魅力的な作品でもあります。

 

 

※『騎士譚は城壁の中に花ひらく』の第1話は、ゆづか正成先生のTwitterで公開されています↓

 

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

山道と河川が交わる場所に建てられた要城、錠の城《クラウストラ》。三百年の歴史を持つこの城で、ロサ=スカーラエは騎士見習いとして働いていました。この時代、騎士を志す貴族の子弟は、主人筋の別の城に預けられ、そこで従者や給仕として下働きをしながら修練するのが慣習だったのです。

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

ロサは丈夫な身体を持っており、修練中に”刃をつぶした剣”で騎士に殴りつけられても、たんこぶ一つで済むほどの頑丈な石頭の持ち主。しかしその一方、体幹が弱くてしょっちゅう転んでしまうという弱点もありました。

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

ロサは梯子の城《スカーラエ》の生まれ。ロサの苗字もその城の名前から来ています。しかし、「梯子の城はもう」という台詞、そしてその後ろに描かれた回想のコマを見るに、おそらくロサは帰る故郷をなくしているのだと思われます。

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

「帰りたいな……スカーラエに」不意にそんな言葉を呟いてしまったロサに、クラウストラ城主の息子・ラケルタがかけた言葉とは……ぜひ本編でお確かめください。(ラケルタ君、少年漫画の主人公って感じで筆者は結構好きです)

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

さて、クラウストラでは雑用ばかりさせられているロサですが、意外にもその雑用が騎士道の修行にもつながっている様子。たとえば馬の世話にしても(ロサは雌馬・カルボーの機嫌をとることに失敗したりもするのですが…)、先輩騎士のケルウスが言うように「騎士と馬とは不離一体 どちらが不完全でも力を出し切れない」もの。馬を気遣えてこそ、初めて一人前の騎士と言えるのです。

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

また、給仕の仕事をする中でも、ロサは料理長をはじめとする厨房の人々が、ただ食事を用意しているだけではないことに気づきます。城の人々がちゃんと元気でいるか、栄養は足りているか、病気にかかってはいないか……料理人たちは城の全員の命を預かっているのです。料理長の台詞「騎士だって一人で戦っているわけじゃねェ 飯の美味い城の騎士はだいたい強えのさ」は、そこまでの食事描写の丁寧さもあいまって、読者の胸にすっと染み込んでくる名言です。

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

この作品、本当にひとつひとつの描写が丁寧なんです。ロサの部屋や厨房の間取り、騎士たちが使う食器、城門の構造、ガラス細工の仕組み、平らな土地に大きな城を築き上げるまでの過程……細かいところまでしっかりとした解説が入っていて、作者のゆづか正成先生が本当に見てきたんじゃないかというほどの確かなリアリティを持って描かれているんですよね。

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

ところで、ロサにはある大きな秘密があります。男子として振る舞っているロサですが、実は男装の少女なのです。ロサが女子であることは城内でも限られた人しか知りません。女子であることを隠しながら、騎士たちと同じ宿舎で共同生活しなければならないため様々な苦労(お風呂とか…)がある一方で、同性の人々に対しては無自覚に距離を詰めていくのでプレイボーイだと誤解されてしまう場面も……。

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ゆづか正成『騎士譚は城壁の中に花ひらく』(オーバーラップ)1巻より

『騎士譚は城壁の中に花ひらく』は、いまのところ戦争などが起こらない”日常系”のストーリーです(ただし「馬上槍試合」という催し事での騎士同士の戦いはあって、そのバトル描写は超かっこいいのですが)。この物語の焦点は、見習い騎士である男装少女・ロサの成長にあると言えます。今はまだちびっこなので、女子であることが露見していませんが、成長すればするほど隠すことは難しくなります。それでもロサは騎士を目指し、騎士になるのか。それとも何か違う道がロサを待っているのでしょうか。2巻以降のストーリーが楽しみです。

 

ロサ(Rosa)とは、「薔薇」を表す名前なのだと思います。芯が強く美しい薔薇が、中世ヨーロッパの城壁の中でどのような花を咲かせるのか……これからも目が離せない物語です。

 

第1話、最新話はこちら↓から

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