【知られざる名作】バイト先で無限にボケとツッコミを繰り返す二人の高校生……決してキラキラしてはいない青春、だけど彼らの日常は最高に可笑しく、いとおしい! ギャグと胸キュンのバランスが絶妙すぎる名作『うたかたダイアログ』
「中学生以下の人には残念なお話ですが 高校生になったからって
部活が超盛り上がったり
俺様男子に迫られたり
超能力が発現したり
ロボを操縦したり
世界を救ったり
逆に壊したり
そういった青春を送る人は ほぼいません」
稲井カオル『うたかたダイアログ』(全3巻、白泉社)の1ページ目は、いきなりこんなナレーションから始まります。『ザ花とゆめ』誌で連載された、れっきとした少女漫画ですがいきなり読者の幻想をぶち壊しにかかるのです。では、『うたかたダイアログ』は一体どんな漫画なのでしょうか?
ドラッグストア「わかば」でバイトする高校生・片野 優太くんは、ヤンキー風のファッションに身を包み、頭も金髪にしているものの、実はケンカもタバコもせず、マジメな進学校に通っている、ちょっと不器用な男子。同い年のバイト仲間・宇多川 あずささんに恋をしているものの、なかなか想いを伝えることができません。
一方の宇多川さんはしっかり者。メイクやファッションなどにはあまりこだわらず、お金を節約するためにチラシの裏をメモ帳にしたり、友人とはお金のかからない公園で遊んだりするという、年頃の女子高生とは思えないような几帳面と破天荒の間を反復横飛びしている系ヒロインです。
二度とは戻らない高校時代を、ドラッグストアで無駄話しながら浪費していく二人。片野くんが「せっかくの夏休みを無駄に過ごしたら、いつか後悔するんじゃないか」と不安になっても、宇多川さんは「それは心の熱中症だね」とクールに一蹴したりします。
しかし、そんな二人もカラオケに行ったり、
花火大会の日に一緒にでかけたり、
パンケーキ屋に行ってみたり、
焼きイモ消失事件の謎を解決したり、
決してキラキラした青春ではないけど、なんだか楽しそうな日々を過ごしています。
『うたかたダイアログ』の特徴は、とにかく小ネタが多いところ。だいたい1ページに1回はツッコミ台詞が入ってくるのですが、これがジャブのように効いてきて、読み進めていくうちに笑いが止まらなくなってくるのです。「ブフッ」みたいな奇声を発しちゃうので、あまり電車の中とかで読まない方がいいやつ。
個人的に、読んでいて強く思うのは、「ボケをちゃんとツッコんでくれる友達ってありがたいよな〜」ということです。とくにしょーもないボケであればあるほど、ちゃんと拾ってもらえると嬉しかったりするもの。会話の波長が合う友人というのはなかなか得難いですし、大切にしなければいけませんよね(まあこの二人の場合は、天然ボケも結構入ってきてるけど……)
1巻のオビには『それでも町は廻っている』『天国大魔境』の石黒正数先生が、2巻のオビには『ブラステッド』『秋津』の室井大資先生が推薦コメントを寄せていますが、確かに納得というか、両先生の作風とも通じるところがかなりある気がします。読者の腹筋を崩壊させる言語センスとか。
稲井カオル先生は、『うたかたダイアログ』の連載終了後、現在は『ヤングアニマルZERO』誌(白泉社)で『そのへんのアクタ』を連載しておられます。こちらはジャンルとしては「青年漫画」になるのかもしれませんが、これもとても面白い作品なので、近いうちに紹介記事を書きたいです。
また、稲井先生はよくTwitterに4コマ漫画を掲載し、息をするようにバズりまくっていることでも有名ですね。TogetterやKindleに読みやすくまとめられているので、こちらも超お薦めです。
4コマ漫画「シェフ」 pic.twitter.com/4lomaw9jVU
— 稲井カオル@そのへんのアクタ1巻発売中 (@Kaoru_Inai) 2020年10月4日
さて、『うたかたダイアログ』は二人が高校を卒業するまでを描き、全3巻で綺麗に完結した作品です。宇多川さんに想いを寄せる片野くん。宇多川さんも、片野くんのことは憎からず思っている様子。恋の行方はどうなるのでしょうか。
実は最終回の後日譚として、大学生になった二人を描いたエピローグ(コミックス描き下ろし)が第3巻に収録されているのですが、これがもう本当に最高なのです! うたかたのような日々を共に過ごしてきた二人だからたどり着ける最高にいとおしい結末を、是非、是非コミックスで読んでいただきたいです!