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【今週のPowerPush】魔王を倒し、世界を救った冒険から70年後……不老不死のエルフは、死にゆく仲間を看取り、新たな旅に出る。仲間が育てた、人間の少女を連れて。少年サンデーの次世代を担う意欲作『葬送のフリーレン』は少年漫画の新基軸だ!

 

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山田鐘人・アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館)1巻より

勇者・ヒンメル。戦士・アイゼン。僧侶・ハイター。魔法使い・フリーレン。先日、待望の第1巻が発売された『葬送のフリーレン』(原作・山田鐘人、作画・アベツカサ、小学館)は、この4人組が魔王を倒す物語……ではありません

 

『葬送のフリーレン』の第1話は、魔王を打ち倒した勇者の一行が、王都に帰ってくるところから始まる物語なのです。

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山田鐘人・アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館)1巻より

彼らが王都に帰ってきたその日は、奇しくも50年に一度の流星群が夜空を彩る日。不老不死のエルフであるフリーレンは「50年後。もっと綺麗に見える場所知ってるから、案内するよ」と簡単に言います。人間である勇者・ヒンメルは「そうだな、皆で見よう。」と答えますが、その微笑みの裏にはどんな思いがあったでしょうか。

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山田鐘人・アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館)1巻より

それから50年後。世界中の魔法を収集する旅をしていたフリーレンは、魔王城で拾ったアイテム「暗黒竜の角」をヒンメルに預けたままであったことを思い出し、久しぶりにヒンメルを訪ねます。

 

そこで目にしたのは、すっかり老人になってしまった勇者の姿でした。

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山田鐘人・アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館)1巻より

勇者一行の4人は再び集合し、50年ぶりの流星を一緒に眺めるための短い旅をします。「ありがとうフリーレン。君のおかげで最後にとても楽しい冒険ができた。」夜空を見上げ、そうつぶやいたヒンメルは、その後すぐに亡くなってしまうのでした。

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山田鐘人・アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館)1巻より

「人間の寿命は短いってわかっていたのに、なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう」

強い後悔がフリーレンを襲います。不老不死のエルフであるフリーレンは、「50年」という時間をそう長いものだと感じてはいなかったのです。しかし、そのあいだに大切な仲間は老い、そして死んでしまいました。「私はもっと人間を知ろうと思う。」フリーレンはそう決意するのでした。

 

それから20年後。僧侶・ハイター(彼もヒンメルと同じく人間であり、死が近づいています)は戦災孤児の少女・フェルンを家に住まわせ、育てていました。ハイターを訪ねてきたフリーレンに対し、ハイターは、魔法使いとしての素質があるフェルンを弟子にとらないかと提案するのでしたが……

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山田鐘人・アベツカサ『葬送のフリーレン』(小学館)1巻より

『葬送のフリーレン』は、すでに平和が訪れた世界を描いた、少年誌とは思えないほど静謐な物語です。普通なら「勇者一行と魔王との戦いの物語」を描きたくなりそうなものですが、そうではないところが新鮮です。しかし重要なのは、勇者一行と魔王との戦いがあったからこそ、今のフリーレンがあるのだというところではないでしょうか。

 

フェルンと共に世界中を旅する中で、フリーレンの口からは勇者一行の思い出がたびたび語られます。「仲間たちならきっとこういう行動をしたはずだ」その思いがフリーレンの行動を変えていきます。勇者一行との旅は、それだけ大きな影響をフリーレンに与えていたのです。彼女にとって、10年という年月は、決して長い時間ではなかったのに。

 

今は亡き仲間たちが、今もフリーレンに影響を与え続けている。そしてそのフリーレンが、平和な世界をより美しく彩っていく。『葬送のフリーレン』は、読者の心に優しく染み込んでいくような、豊かで美しい物語なのです。

 

また、フリーレンと共に旅する人間の少女・フェルンの成長ぶりも見どころのひとつです。出会った頃には感情が表に出てこなかったフェルンが、旅を続けていく中でどんどんと表情豊かになっていく。『葬送のフリーレン』はそんな美しさも内包した作品です。

 

少年漫画としては異端とも言えるこの作品を連載している『少年サンデー』誌の、懐の深さにも恐れ入りました。おそらくこの作品はヒット作になるでしょう。アニメ化などのメディアミックスの可能性も大いにあると思います。今後の漫画界に少なからぬ影響を与えていくであろう『葬送のフリーレン』、その実力を見抜いていた『少年サンデー』誌の慧眼にも乾杯です。

 

 

『葬送のフリーレン』第1話・第2話の試し読みはこちら↓から

 https://www.sunday-webry.com/viewer.php?chapter_id=71152

 

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