【週末イッキ読み推奨】男子と女子は違う生き物……だからこそ、言葉を交わしたい! 風変わりな二人の高校生が過ごす優しい時間を描いた『僕と君の大切な話』は、男性読者にこそ読んで欲しい”日常系”少女漫画です
少女漫画、と聞くとどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。
現実離れしたイケメンたち。地味なのになぜかモテるヒロイン。そしてイケメン達がヒロインをめぐってドロドロの恋愛バトルに突入……そんな話ばかりだと思っていませんか。
2020年の講談社漫画賞を受賞した傑作、ろびこ先生の『僕と君の大切な話』(全7巻、講談社)は、そんなステレオタイプとは一線を画した、典型的な少女漫画とは正反対の漫画です。しかしこれが、ものすごく素敵な作品なのです!
主人公の東 司朗くんは、紳士的ですが、かなり理屈っぽい高校生。凶暴な叔母たちに囲まれて育ったせいで、ちょっと女性不信に陥りがちところがあります。一見すると地味っぽいものの、よく見たら凛々しいイケメンではあります。ですが、色んな意味で、あまり「少女漫画の男子」という雰囲気ではありません。
一方、ヒロインの相沢 のぞみさんは、ひょんなことから東くんを好きになってしまい、後をつけたり私物を盗んだりといったストーカー行為がやめられなくなってしまった天然少女。自分の暴走を止めるためにはいっそ告白するしかない! という微妙にポジティブな理由で、勇気を出して東くんに話しかけるのでした。そんな相沢さんは地味ヒロインどころか学年一の美少女ときています。こちらも、「少女漫画らしい女子」という感じではありません。
駅で、学校で、図書館で、家で……二人はあらゆるところで色んな話をします。
「どうして少年漫画は戦いばかりなのか」
「どうして少女漫画は恋愛ばかりなのか」
「なぜ女子は理由も言わずに怒るんだ」
「男子は女子のどこを見ているの」
etc… 男子にとって女子の行動は、女子にとって男子の行動は不思議でいっぱいなのです。話題は尽きることがありません。
『僕と君の大切な話』は、1巻で出会った二人が7巻で付き合い始めるまで、そんな話をずーーっとし続けている、「新感覚”トーキング”ラブコメディ」(オビ)なのです!
ドロドロの三角関係、痴情のもつれ……そんなものは『僕と君の大切な話』には一切、存在しません。三角関係になりそうなフラグが立つ時もありますが、作者のろびこ先生はそのフラグを速攻で破壊していきます。『僕と君の大切な話』は、そういう作品ではないのです!
とはいえアニメ化や実写映画化もされた名作『となりの怪物くん』(全13巻、講談社)など、甘酸っぱい漫画を描き続けてきた実力者・ろびこ先生です。各巻の要所要所で、きっちりと読者を胸キュンさせ「あああああ、こんな恋がしたいなあ!!」と思わせてくれます。現実離れしたイケメンや、地味なヒロインや、ドロドロ三角関係……そんなものがなくてもちゃんと胸キュン少女漫画は成立するのです。『僕と君の大切な話』は、いわば”日常系”少女漫画という新ジャンルを確立したといえるでしょう。
『僕と君の大切な話』第1巻で、東くんはこんなことを言います。
「誰であれ なんの話であれ 自分から会話を閉ざすようなことはしたくないんだ たとえば僕と君が違う星の人間だとして それをつなぐのは言葉だろう だったら こちらから閉ざしてしまうのはあまりにももったいない」
同じ人間とはいえ、男子と女子では全然考え方が違ったりするもの。時には「違う星の生き物なんじゃないか」とすら思えたりします(キリンジの「エイリアンズ」のように)。それでも、だからこそ、誰かと言葉を交わすのは面白い。そんな風に思わせてくれる漫画が『僕と君の大切な話』なのです。少女漫画誌に連載された作品ではありますが、是非とも男性にこそ読んでもらいたい作品だと筆者は思います。
ところで、どうでもいいような話ですが、東くんが読書家キャラなせいか(サブキャラクターの浜田さんも読書家ですね)、『僕と君の大切な話』では「キャラクターが本を読んでいるシーン」が頻繁に登場します。それも、実在する本を読んでいるのです。
彼らが読んでいる本は、『夏への扉』のような古典的名作文学から、自己啓発本のようなビジネス書、さらに「ウメハラ」ことプロゲーマー・梅原大吾さんの著書まで、幅広いジャンルにわたります。おそらく、ろびこ先生はかなりの読書家なのであろうと思われます。
このページなんて、見てください。
ハヤカワSF文庫のロゴマークまできっちり描いてあるんですよ! 読書家じゃなければ絶対ここまでこだわらないと思います。いや、だから何だという話なんですが……。