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【今週のPowerPush】「また異世界転生ものかよ……」そう思った瞬間、既に作者の術中に嵌っている! 天才マジシャンの少年と、特殊な技能を持つ美しき”魔女”たちが目論む”革命”は果たして成功するのか。少年マガジン期待の新連載『魔女に捧げるトリック』の1巻が出た!

 

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

週刊少年マガジン』誌で今年(2020年)始まった新連載といえば、完結した『五等分の花嫁』の跡を継ぐような形でスタートした『カッコウの許嫁』がとにかく話題を集めています。が、筆者としてはもう一作品、カッコウの許嫁』と同じぐらい注目されてほしいと思っている新連載があるのです。

 

本日紹介するのは、少年マガジンで連載されており、先日第1巻が発売されたばかりの作品、渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)です。これ、本当によくできた漫画なんです。

 

当ブログでは最近このパターンが多いのですが、『魔女に捧げるトリック』も第一話に仕掛けがある作品なので、この記事を読む前にできればここ↓から第一話を読んでいただきたいのです。事前情報無しで読んだほうが絶対おもしろいタイプの第一話ですからね。

pocket.shonenmagazine.com

 

……はい。

 

……読みました??

 

……読みましたね??

 

さて、第一話のカラーページのアオリ文に異世界転生×魔女×マジック=痛快英雄譚!」と書かれているこの作品について、ここから少し紹介していきます。

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

主人公の針井 マキトは17歳。幼少期から「天才マジシャン少年」として有名になり、テレビに出演したり海外巡業したりしている有名人です。華があり、マジシャンとしての腕も確かなマキトは、まさに超一流のマジシャンと言えます。しかし……彼は17歳にしてマジシャンを引退することを決意し、引退公演に臨むところでした。

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

マキトはうんざりしていたのです。まるでアイドルのコンサートのように、マジックではなく「有名人」を見に来るミーハーな観客たちにも。マジックを披露した途端、スマホでトリックを検索されてしまうという虚しい状況にも……。

「どうせなら本当の魔法がある世界に行って、亡き母ともう一度話したい」そんなことを夢想しながら、好物のチョコレートだけを心の支えにし、引退公演のステージに立ったマキト。そこで信じられない事件が起こります。

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

最後の演目「炎からの脱出」で、想定外の事故が発生。マキトは焼死してしまいます。そして、次の瞬間……。

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

マキトは中世ヨーロッパ風の建物が立ち並び、甲冑を着た騎士が練り歩く場所で目覚めたのです。

「これ…アレだろ アニメとかでよくある… 異世界転生”ってやつだろ……!!」

直感的にそう思ったマキト。いや、別人に生まれ変わったわけではないので、異世界だとしても「転生」ではないのでは…?? という揚げ足取りはさておき、そんなマキトの前にひとりの少女が現れます。

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

気を失っていたマキトを介抱してくれていたその少女はミア・カルペッパー「魔女」を自称する少女の出現で、マキトはますます自分が「異世界転生」を果たしたとの確信を深めるのでした。

しかしその直後、ミアは異端審問官に連れ去られ、魔女裁判が始まります。執拗な拷問で「魔女集会」の場所を聞き出そうとする審問官に対し、ミアは「神の使徒たる司祭様がそうおっしゃるなら」きっと自分は魔女なのだろうが、「他の魔女なんて知らない」と答えます。

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

そう……マキトは”異世界転生”をしたわけではなかったのです。死んだはずのマキトがたどり着いたのは、400年前の中世ヨーロッパの世界。マキトは、魔女狩りが行われている時代にやって来てしまったのです。

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

今まで培ってきたマジシャンの技術を使い、異端審問官からミアを救い出したマキトは、マジックの力で教会に対抗して魔女狩りを止めるための戦い”魔女革命”を始めることを決意するのでした。

 

異世界転生ものと思わせといて異世界転生ものとちゃうんかーい!」というトリッキーな第一話から始まった『魔女に捧げるトリック』ですが、これが非常に面白い。理由はいくつかあると思うのですが、大きく分けると、

 

①正義の物語である:”魔女狩り”という不正義が公然と行われていた中世ヨーロッパが舞台なので、やや曲者であるマキトが「正義の味方」を目指すようになるのも自然です。

 

②「マジックで戦う」という面白さ:『魔女に捧げるトリック』は超能力ではなく、あくまでも物理法則に従ったマジックの力で戦う物語です。マキトがマジックを繰り出すたび、そのトリックが図解されるのがポイント。またマジックというアドバンテージが主人公サイドにあるおかげで「少人数で悪の権威と戦う」という構図も実現可能になっています。

 

③キャラクターの魅力:マキトはひねくれ者とはいえ自分の信念をしっかり持っていて素敵な主人公ですし、何よりヒロインたちが皆かわいい。1話の拷問シーンはややドギツイかなとも思ったのですが、全体的にみれば少年誌らしい、健康的なお色気(?)の範囲になっているところも個人的に好きです。

 

といったところでしょうか。しばらくは、マキトが魔女たちを救い出し、味方につけていく「仲間集め」の物語が続いていくと思いますが、「”魔女”と認定される人は何らかの特殊技能(薬剤の調合や武具の製作など)を持っているせいで教会に目をつけられてしまう場合が多い」→「”魔女”を救い出して味方につけると戦力になりやすい」というのも自然なレトリックだと思います。

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

個人的にびっくりしたのは、巻末に記載された参考文献の多さ。すっきり読める少年誌らしいエンタメ作品である本作ですが、その裏ではかなり綿密な調査・取材が行われていることも窺えます。王道エンタメ作品でありながら参考文献の多い労作といえば筆者は『ゴールデンカムイ』を思い出しますが、本作もそれに似たところがあるかもしれません。

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渡辺静『魔女に捧げるトリック』(講談社)1巻より

多少のツッコミどころを挙げることはできますが(君たち何語でしゃべってるの?とか、そのトリックは物理的に無理では?とか)、それは無粋というもの。毎週すっきりと楽しめる、異端のようで実は王道な、少年誌らしい正義のストーリーをこれからも楽しみにしていきたいと思います。