最強おもしろ漫画紹介ブログ

自信を持ってお薦めできる漫画しか紹介しません。週3回更新。

【知られざる名作】「憧れの美女と飲みに行く」という夢のような日々を手に入れた、平凡な若手サラリーマン……しかし本当の戦いはそこからだった! 実在の"変わった飲み屋"を巡る物語『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』は、夢見がちな男子に非情な現実を突きつける必読のラブコメディ!

 

f:id:omosiro_manga:20201223160445p:plain

いづみみなみ『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA)1巻より

本日ご紹介するのは、抜群に絵がかわいい漫画です(何しろ「あなたのために作ったかわいいコミック誌」こと『月刊コミックキューン』で連載されていた作品ですからね)。そして描かれているのは「美人な先輩とふたりで飲みに行く」という夢のようなシチュエーション。男性読者が胸をときめかせてページをめくるような、ふわふわの恋愛漫画……だと思うじゃないですか。

 

ところがこの作品……甘い気持ちで読み始めると痛い目を見るのです。主人公のダメさがだんだん自分自身と重なって見えてきたり、過去の古傷が開いたりするかもしれません。それでも全巻一気読みせずにはいられないような、すごい魅力を持った作品なのです。いづみみなみ先生の『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA、全4巻)を本日はご紹介いたします。

 

f:id:omosiro_manga:20201223160618p:plain

いづみみなみ『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA)1巻より

日吉 太陽は、仕事も顔も「そこそこ」な、20代半ばの平凡なサラリーマン。ある時、憧れの先輩・月沢 佳夜と職場の飲み会で隣になり、会が終わった後でふたりで飲み直しに行くことになります。

f:id:omosiro_manga:20201223160701p:plain

いづみみなみ『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA)1巻より

実は月沢さんの趣味は、「変わったお店でお酒を飲むこと」。作中に登場するお店はどれも実在の飲み屋さんで、店名・住所などもはっきり明記されているのですが、『坊主バー』『秘宝館』『女装サロンバー』などクセの強いお店ばかり。ストーリー展開とは別に「へぇ、こんなお店があるんだ!」という驚きも味わうことができます。

f:id:omosiro_manga:20201223160739p:plain

いづみみなみ『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA)1巻より

初めて飲みに行った日、勇気を振り絞って「よかったら またふたりで呑みにいきませんか」と言った日吉に対し、月沢さんの答えは「いいよ 呑み仲間だね!」。何だかこのやりとりだけで全てが察せられてしまうような感じもしますが、何回もふたりきりで飲みに行くにもかかわらず、日吉くんと月沢さんの関係は全然進展しません

f:id:omosiro_manga:20201223160820p:plain

いづみみなみ『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA)1巻より

日吉くんが長い間、一方的に憧れていた大人の女性・月沢さんは、スキがあるようでスキがない。そんな彼女が何を考えているかを日吉くんはいまいち読みきれません。そして月沢さんのペースに乗せられ、振り回されているだけで何だか楽しいと思ってしまい、「そこから先」へ進む方法もわからないのです。

f:id:omosiro_manga:20201223160925p:plain

いづみみなみ『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA)2巻より

男から見れば「優しそう」「オレでも受け入れてくれそう」と思わせるタイプの月沢さん。しかしその実、会社内でもコミュニケーション上のトラブルを全て回避してきたなど、相当の強者です。ただ漠然と恋に憧れ、煩悩に振り回されているだけのひよっ子・日吉くんでは相手になりません。そう、この作品は……ラブコメでありながら結構「現実寄り」のシビアな価値観で進んでいく作品なのです。

f:id:omosiro_manga:20201223161024p:plain

いづみみなみ『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA)1巻より

「そもそも俺はこの人とどうなりたいんだっけ?」「俺はこの人を等身大の人間として見られるだろうか?」。

『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(以下『おね酒』)は、ラブコメ漫画にありがちな「なんでこの主人公がモテるんだ」というようなご都合主義を採用しない作品です。もちろん、最初から完璧な主人公というわけでもありません。最初はヒロインと恋愛するには『足りなかった』主人公が、独り善がりな妄想をやめて、現実の「一人の女性」と向き合えるようになることを目指す作品なのです。その試みが上手くいったかどうかは……最終話まで読んで確かめていただきたいのですが、筆者はこのリアルな結末が個人的にはかなり好きです。

f:id:omosiro_manga:20201223161124p:plain

いづみみなみ『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA)1巻より

そんなわけで『おね酒』は、「ラブコメ漫画」「グルメ漫画」でありつつ「主人公(日吉)の人間的成長」が一番の見どころになっていく作品だったりします。基本的に主人公目線で描かれている漫画なので「今、ヒロインが何を考えているか」がはっきりとは描写されません(日吉くん自身がわかっていないため)。それを理解するためには、相手を等身大の人間として見るしかないのです。果たして日吉くんは、脳内の「都合のいい偶像」を捨て、イヤなところや勝手なところもある「現実の月沢さん」を愛することができるのでしょうか……。

f:id:omosiro_manga:20201223161204p:plain

いづみみなみ『綺麗なおねえさんと呑むお酒は好きですか?』(KADOKAWA)3巻より

そんなわけでここまでご紹介した『おね酒』は、ファム・ファタール的な美女に翻弄されたい人には120%の自信を持ってお薦めできる作品ですが、単なる萌え漫画だと思って読むと想像以上に「抉られる」作品なので覚悟を決めて読んでくださいね。基本的には笑えるコメディですが、恋愛漫画としては単なる「夢物語」を描くことを良しとしない、志を高く持った素敵な作品でした。

 

第1話の試し読みはこちら↓から

comic-walker.com