【今週のPowerPush】現実逃避のコツ、それは……振り返らないことさ！ 漫画家として〆切に追われる後輩と、無職だけど自己肯定感最強の先輩、ルームシェア中の女子二人が買い物・旅行・掃除などありとあらゆる現実逃避に没頭する『ふたりエスケープ』は優しく癒されるゆるふわ百合作品！
この世界には無数の職業がありますが、どんな生き方を選んでも選ばなくても、きっと予想もしないような苦労がついてくるものでしょう。頼みもしないのにやってくる厳しい現実にどう対処するのが良いのか……「逃げずに立ち向かうべき！」と思ったそこのあなたは、この記事を読む必要がない人なのでどうぞブラウザバックしてください。
「辛い現実からはなるべく逃避しながら、何とか折り合いをつけていきたいな…」日頃からそう思ってる社会不適合気味なあなた、当ブログはあなたのような人をお待ちしていました！ 本日ご紹介する作品『ふたりエスケープ』（一迅社、1巻まで発売中）は、ルームシェア中の漫画家＆無職の二人組が、楽しく現実逃避を繰り返すゆるふわ百合作品です。
※『ふたりエスケープ』は、第1話を公式twitterで読むことができますし、数話が「pixivコミック」にも掲載されていますので、まずそちらを読むことをお薦めします
絶対にスマホを見ないようにする方法（1/3） pic.twitter.com/kjSubsqknI
— 『ふたりエスケープ』公式 🌟 1巻発売中！ (@hutari_escape) 2020年11月19日
さて、『ふたりエスケープ』はルームシェアをしている二人の女子が主人公の作品です。
「遠くへ…ゆきたい…」そんな台詞とともに、涙を流しながら原稿に取り組んでいる漫画家の後輩（ちなみに、名前はわかりません。2巻以降で明らかになるのでしょうか？）。一方、そんな彼女を「…行けば？」と冷たくあしらうのが無職の先輩（こちらも名前はわかりません）です。
〆切に追われ、現実逃避せずにはいられなくなった後輩に対し、先輩は固有スキル「プロの現実逃避」を発動します。それは、スマホを郵便ポストに投函するという荒業でした。
「文明の利器を失った今 引き換えにお前は手に入れたんだよ 自由を…！」
強制的にネット環境から離れた（※先輩は金欠なので元々スマホを持っていません）ことにより、訪れた穏やかな時間。二人は映画を見たり、旅行ガイドを読んだり、一緒にお風呂でお酒を飲んだりと、思う存分に羽根を伸ばすのでした。
「先輩がいれば 絶海の孤島でも楽しくやれそうです」そんな後輩の言葉に、照れ隠しでお風呂のお湯をかける先輩。全体的にはコメディタッチの作品ですが、時折こうした優しい百合描写が挟み込まれるのが筆者としては最高にうれしいです。好きですこの感じ、もっとください！
先輩はすごい美人で、そのうえ後輩ちゃんがこっそり描いた自分の肖像画を見ても「さすが かわいいなあたし」と素直に喜べるような、確固たる自己肯定感の持ち主。たとえ無職だろうが金欠だろうが（たぶん家賃すら払ってないと思いますが）揺るぎないメンタルで「プロの現実逃避」を手ほどきしてくれます。
基本的には「〆切に追われ情緒不安定な後輩ちゃん」を、「メンタル最強だけど無職なのでお金がない先輩」が煽ることで二人のエスケープが始まってゆきます。無職先輩は語ります……「いいか 現実逃避のコツは 振り返らないことだ」と……。
そんな二人が（〆切からの現実逃避として）金沢に旅行する第5話が筆者は特に大好きです。まず「資料写真を撮るため」と称して後輩ちゃんに着物を着せられる無職先輩がめちゃくちゃかわいい。最の高です。この恰好で金沢の街を練り歩く先輩、そしてその姿を写真に収めようとする後輩……という一連のシーンが思わず息を呑むほど尊いので是非単行本でお確かめいただきたいのです！
そしてこの金沢旅行によって、〆切に追われヨボヨボになっていた後輩ちゃんも元気を取り戻すのです。この旅行が漫画作りに直接役立つかといえば、おそらく何の役にも立たないのですが、それでも先輩が一緒に現実逃避してくれたからこそまた頑張れる、というその気持ちはとてもよくわかる気がします。人間、独りではなかなか頑張れないですからね。
ゆるふわコメディと、優しさ・尊さが絶妙なバランスでブレンドされている最高の百合作品『ふたりエスケープ』ですが、もうひとつ付け加えるなら装丁も最高です。単行本のカバー裏に「ある仕掛け」がされているのですが、これが本当に粋なカバー裏になっているのです。もし『このカバー裏がすごい！2021』があれば全力で1位に推したい作品です。（なお、カバー裏の趣向は電子版でもしっかり収録されています。）ちなみに紙版と電子版では表紙のイラストが違うみたいなのですが、思わず両方集めたくなってしまいますね……。
