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【知られざる名作】大人気作『来世は他人がいい』の前日譚となる読み切りが、2015年の時点で描かれていた! 小西明日翔先生の商業デビュー作にして、ヤクザの組長の孫・吉乃と、吉乃に想いを寄せる組長の養子・翔真との出会いを描いた”エピソード0”『二人は底辺』はファン必読の短編です!

 

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小西明日翔『二人は底辺』(一迅社)より

2017年から『アフタヌーン』誌で連載され、既に累計90万部を突破、「このマンガがすごい!」や「次にくるマンガ大賞」などにもノミネートされる大人気作となった、小西明日翔先生の『来世は他人がいい』(講談社、4巻まで発売中)。

 

大阪ヤクザの組長の孫娘と、東京ヤクザの総長の孫息子の過激で危険な婚約生活を描いた本作ですが、実はそのプロトタイプとなる読み切り作品が『コミックゼロサム』誌(一迅社)2015年9月号に掲載されており、現在はその読み切り作品単体で電子書籍として販売されています。本日はこの傑作短編『二人は底辺』をご紹介します。

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小西明日翔『二人は底辺』(一迅社)より

染井 吉乃は、大阪の暴力団「染井組」の組長・染井 蓮司の孫娘で、現在中学一年生。ある晩、自宅兼組事務所の一階で、組員たちとひとりの若者とが乱闘しているところを目撃します。その恐ろしさに、すぐ二階の自室へと逃げ帰った吉乃でしたが、若者の顔にはどこかで見覚えがありました。

 

その若者は鳥葦 翔真。吉乃と同じ中学校に通っており、学年は吉乃の二つ上。実は翔真の父親は覚醒剤の売人をしており、蓮司がその元締めだと勘違いした翔真は、クズの父親もろとも蓮司も殺してやろうと考え、蓮司を襲撃したのでした。蓮司はそんな翔真を気に入り、自分の息子(ヤクザの子分という意味ではなく、普通に自分の子どもという意味)として翔真を育てることを提案します。その申し出を受けた翔真の答えは……

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小西明日翔『二人は底辺』(一迅社)より

「……どうでもいい」

蓮司の突然の申し出に対しても、驚きや戸惑いすらなく、心の底からどうでもよさそうにしている翔真。その無気力さに吉乃は戸惑います。

その日登校すると、女子生徒たちが翔真の噂をしているのが耳に入り、つい聞いてしまう吉乃。しかし、話の流れで染井組、さらには吉乃自身までが好奇と侮蔑の視線に晒されていることを吉乃は思い知るのでした。

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小西明日翔『二人は底辺』(一迅社)より

無気力で投げやりに生きている翔真に、どう接したらいいか戸惑う吉乃。そんな吉乃に、染井組の構成員の布袋 竹人は翔真の生い立ちの調査結果を伝えます。8歳の時に母親を亡くし、それから三回は育てる人間が変わっていること。最終的には例の父親に引き取られたが、その理由は「息子の面倒を見たら親戚から金がもらえるから」だったこと。そして今回もヤクザに金で売り飛ばされたようなものだということ。

 

布袋は、「アイツがうまくやっていける場所なんかもうここしかないやろ」と言います。そして「わたしらあの人とうまくやっていけるんかな…」と悩む吉乃に、こう言いました。

「この世界は底辺の人間が行き着く最後の場所みたいなもんや 俺も親父(組長)もそうやって渡世入りしてきた 底辺が底辺を受け入れんくてどうすんねん」と。

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小西明日翔『二人は底辺』(一迅社)より

その言葉を聞いた吉乃はある行動に出るのですが、それが思いもよらない事件の始まりになるのでした……。

 

『二人は底辺』は、現在連載中の大人気作『来世は他人がいい』と世界観を共有している作品です。『来世は他人がいい』は、高校生になった吉乃が上京し、東京ヤクザの孫息子・深山 霧島(こいつが本当にとんでもないやつなんですよね)との危険な婚約生活を始めるストーリー。一方『二人は底辺』は、その約三年前、吉乃が中学生だった頃の物語です。

 

と書くと、まず『来世は他人がいい』の連載が始まり、その人気が出たのでスピンオフとして『二人は底辺』が描かれたのかと思われるかもしれませんが、実際はその逆。実は『二人は底辺』は、小西明日翔先生の商業デビュー作となる読み切りなのです。

 

インタビューの中で、小西先生は「構想は『来世は他人がいい』のほうが先だったのですが、編集さんから読み切りの依頼をいただいたとき、1話だけなら吉乃と霧島の物語は作りにくいと思ったんです。そこで吉乃と翔真を主人公にした『二人は底辺』を描きました。」と述べられています。(出典:https://book.asahi.com/article/13394692

 

時系列としては、『二人は底辺』掲載→『春の呪い』(一迅社、全2巻)連載→『来世は他人がいい』連載、という順番になります。(また別の記事で紹介したいのですが、『春の呪い』も読んでいて胸が苦しくなるような傑作でした…!!)2015年の時点で既に『来世は他人がいい』の構想があったのも凄いですし、『来世は他人がいい』と『二人は底辺』を連続で読んでも何ら違和感が無いほど、この時点で絵柄や台詞回しが完成されていることにもびっくりします。

 

『来世は他人がいい』の大きな魅力のひとつとして、普段は常識的な吉乃が急に豹変して、強烈な啖呵を切るシーンが挙げられると思いますが、『二人は底辺』にもそんなシーンがあります。既にこの時点で、吉乃のキャラが完璧に練り上げられていたことがわかります。

また、小西明日翔先生が「鉄男」名義で2015年3月にpixivに上げておられるイラスト集にも、現在の『来世は他人がいい』に直接繋がるイラストが数多くあります。改めて、その構想の深さに驚きますよね。

#NL 来世は他人がいい - 鉄男のマンガ - pixiv

 

鳥葦 翔真は、上記のインタビューで小西先生が「(主人公の)霧島以上と言って良いほど人気」と言われているほど、人気キャラ揃いの『来世は他人がいい』の中でも屈指の人気キャラ。『来世は他人がいい』では、初登場時から既に吉乃にベタ惚れしている状態で現れる翔真ですが、実は中学時代の初対面の時にはそれほど仲が良かったわけではないことが、『二人は底辺』を読むとわかります。では、翔真はなぜあんなにも吉乃のことが大好きになってしまったのか? それは是非、『二人は底辺』を読んでお確かめください。

 

二人は底辺 (ZERO-SUMコミックス)

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