【週末イッキ読み推奨】幼馴染の少女・潮が死んだ――その報せを受け、和歌山の離島・日都ヶ島に二年ぶりに帰ってきた少年・慎平を待ち受けていたのは、想像を絶する過酷な運命だった! 緻密な構成と巧みな伏線で”死と隣り合わせの青春”を描くSFサスペンス『サマータイムレンダ』は現代少年漫画の最高峰だ!
明日から暦の上では三連休。ですが、コロナ禍のさなかということもあり、外出せずに家でのんびり過ごす予定、という方も多いのではないでしょうか。そんな時こそ、読みごたえのある漫画をイッキ読みしたいものですよね。
本日ご紹介する漫画、田中靖規先生の『サマータイムレンダ』(集英社、12巻まで発売中)は、「面白さ」と「読みごたえ」に100パーセントの自信を持って紹介できる作品です。筆者はこの作品、『ジョジョの奇妙な冒険』第4部に匹敵するような至高の少年漫画だと考えています。
しかも、『サマータイムレンダ』は漫画アプリ「少年ジャンプ+」で連載されているのですが、ジャンプ+の作品は(アプリ上で読む場合)初回の閲覧に限り無料で読むことができるのです。つまり、まだ読んだことがない方であればコミックス12冊分を無料でイッキ読みすることが可能ということ。是非この機会に最新話まで読破して欲しい傑作なのです!
さて、いきなりですが、この『サマータイムレンダ』は第1話からびっくりするような展開が待っています。これはなるべく事前情報無しで読んだほうがいい第1話なので、できればこの記事を読む前に、まずこちら↓から第1話を読んでいただきたいのです。
……はい。
……読みました?
……読みましたね?
びっくりしましたねー、まさか第1話のラストであんなことが起こるなんて。
ここからは、第1巻の内容を中心に、『サマータイムレンダ』の最新話までの物語をごく簡単に紹介していきます。
致命的なネタバレは避けますが、ある程度は(特に第1巻で描かれる範囲ぐらいは)内容に触れていきます。もちろん、どうせ読むならネタバレ無しで読んだほうがおもしろいに決まってますので、さっきの第1話を読んで「おもしろいやん!」と思った人は、こんな記事を読むのはやめてすぐにジャンプ+で『サマータイムレンダ』第2話以降を読む作業に入ってください。
さて、『サマータイムレンダ』は18歳の少年・網代 慎平が、生まれ育った島である和歌山県の「日都ヶ島」に二年ぶりに帰るところから始まります。
幼い頃、海の事故で両親を亡くした慎平は、日都ヶ島で洋食屋を営むフランス人・小舟 アランに育てられました。小舟家の二人の娘……フランス人の父親に似て金髪の小舟 潮と、日本人の母親に似て黒髪の小舟 澪の姉妹は、慎平にとって実のきょうだいと言っていいような存在でした。
調理師を目指し、東京の専門学校に通っていた慎平。しかし「潮が亡くなった」という報せを受け、葬儀に参列するため二年ぶりに島へ戻ることになりました。
溺れた子どもを助けるため海に飛び込み、子どもを助けることには成功したものの、潮自身は亡くなってしまった……そんな「事故死」として処理された潮の死でしたが、実は「他殺であったことを示唆する兆候」も見つかっていました。
謎が残る潮の死。さらに葬儀の翌日、「島で暮らしていた一家が失踪する」という事件が発生します。
日都ヶ島には、古くから「影の病」という伝承がありました。影の病に罹った者は、自分にそっくりな「影」を見るようになる……そして「影」を見るようになった者は「影」に殺されて死ぬ……そんな言い伝えです。そして、亡くなった小舟 潮も、失踪した一家のひとり娘も、ここ数日の間に自分にそっくりな「影」を見ていたのです。
※【ここからネタバレがやや増えます。ご了承ください】※
『サマータイムレンダ』は、人間を殺し、その人間と入れ替わろうとする「影」たちとの戦いを描いた物語です。読み進めていくとわかりますが「影」の設定はかなり綿密に練られており、戦いの中で攻略の糸口が徐々に見つかっていくところは、まさに『ジョジョ』などにも似たバトル物の王道少年漫画の面白さと言っていいと思います。また、登場人物たちが「影」の生態を「コピー」「データ」などデジタルになぞらえて把握していくので、読者もその生態を呑み込みやすいという親切設計になっています。
そして『サマータイムレンダ』の最大の特徴として、一種のタイムリープ物であるということが挙げられます。しかも、タイムリープ物の最大の欠点とも言える「もし失敗しても別の世界線でやりなおせばいいのでは?」的なユルみを許さない、タイムリープ物でありながら常に緊張感を失わないような設定になっているのです。
どういうことかというと、第2話を読めばわかるように慎平が影に殺されるたび、時間が巻き戻るのですが(そうなる理由も後の巻で説明されます)、同じ地点に戻るわけではないのがポイントなのです。
一回目の死では、「島に向かうフェリーの上」に戻りました。
二回目の死では、「フェリーが着いた後の港」に戻りました。
三回目の死では、「港から葬儀場へ向かう道」に戻りました。
こうして、ループの「始点」がだんだんと遅くなっていくのです。そして、始点より以前に起こった出来事は「確定した事実」となってしまい、もうやり直すことはできないのです。慎平は死を何度も繰り返しながら、「影」が島民を全滅させる未来を防ぐために戦います。
さらに厄介なことには、「影」たちがこの「ループのルール」をあるタイミングで把握してしまうので、「影」たちはあえて慎平を殺さず(ループさせず)、自分たちに有利な事実を「確定」させようとする……といった戦略をとるようにもなってきます。
次第に明らかになっていくこの作品世界の複雑な「ルール」を紐解きながら、作中での「人間」vs「影」の駆け引きの面白さを味わう……『サマータイムレンダ』はそんな知的興奮に溢れた作品です。しかも、この興奮は巻が進むごとに加速していくのです!
また、読者視点のメタな面白さとして、「一周目」で登場人物が話していて意味がわからなかった台詞が、「三周目」で理解できるようになる、といったループ物ならではの面白さもきっちり用意してくれています。何回でも、何十回でも読み返したくなる、読み返すたびに新たな発見があるような作品です。
『サマータイムレンダ』では、休載の週などに、「記録」と称して作中の謎を解く手がかりとなるかもしれないようなイラストや資料が掲載されます。それらは単行本の巻末やカバー裏にも収録されています。それらを読んで今後の展開を推理したり、緻密に練り上げられた構成に驚嘆したりするのもまた楽しいのです。
ここまでは主に『サマータイムレンダ』の話の構造について書いてきましたが、それらをも凌ぐ最大の魅力はもしかしたら「キャラクターの良さ」かもしれません。潮と澪の姉妹の圧倒的なかわいさは言うまでもないですし、キャラ全員が「本当に生きている」かのような感覚を受けるのです。それは彼らが和歌山の方言で話していることや、独特の趣味や思想(慎平の「フカン」など)を持っていることがそう思わせるのかもしれません。このあたりのユニークなキャラ立ての仕方は、田中先生の師匠である荒木飛呂彦先生の影響もはっきりあるのではないかと思います。(荒木先生はキャラひとりひとりの身上調査書を作るなど、かなり細かくキャラ設定を行うことで有名ですよね)
サブキャラクターたちも皆、本当に魅力的なのですが、中でもひとり挙げるとすれば南方 ひづるを推したいです。その容姿の素晴らしさもさることながら、性格がすごいのです……「こんなキャラクター見たことない!」と断言できるような本当にめちゃくちゃクセの強いキャラクターです。筆者はこの人が本当に大好きなのです……。系統としては『ジョジョ』4部の岸辺 露伴に近いキャラかもしれませんが、その模倣ではなくはっきりとしたオリジナリティを持って動いているキャラだと断言できます。
さて、『サマータイムレンダ』は「ジャンプ+」上において、いよいよ最終決戦のフェイズに入ってきたように思われます(とはいえ、良い意味で読者の予想を裏切り続けてきた本作なので、今後もどうなるかはわかりませんが…)。つまり、読み始めるならまさに今が一番良いタイミング。まずは「ジャンプ+」の”初回閲覧無料”のシステムを利用して、無料で最新話までイッキ読みすることをお薦めします!
(※実はこれ、何度も読み返したくなって結局全巻ポチってしまうことになってしまうという悪魔の薦めなのですが……名作だから許されるよね!)