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【知られざる名作】「面白い漫画」ってどんな漫画? 「ヒーローの必須条件」って何だろう? 自分が「漫画の登場人物」だと自覚させられた主人公が、強大な悪と戦いながら打ち切り回避を目指す、『裏サンデー』黎明期の未完の傑作『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』は読み応え抜群の”メタ漫画”!

 

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)1巻より

メタフィクション。それは、通常であれば作品世界内に登場するはずがない「作者」や「読者」のような存在が登場して作品に影響を与える、などといった虚構性をあえて強調するようなタイプの作品を示すジャンル分類です。

 

本日ご紹介する作品は、2012年からスタートした漫画配信サイト『裏サンデー』で、サイトの開始当初から連載されていた作品『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館、4巻まで発売中)です。この作品は、王道少年漫画のストーリーでありながらメタフィクションの構造を取り入れるという離れ業を目指した作品でした。

 

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)1巻より

山越 肝太は、中学1年生にして「オレは凡人だ。主人公じゃなくて脇役なんだ」と悟るほどの、平凡な少年でした。しかし、そんな彼の部屋に突然『仙人サンデー』という謎の少年漫画誌が出現します。仙人サンデーを開くと、そこには数日前の自分に起こった出来事がそのまま漫画化され、『主人公カンタ』という題名で掲載されているではありませんか。

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)1巻より

不思議な出来事に驚く肝太の前に現れた仙人・ゼクレアトル。「漫画監督」を名乗る彼女(一人称は「俺様」ですがどうも女の子らしいのです)が、肝太の行動や思考を漫画化し、天上の世界「仙人界」で読まれている雑誌『仙人サンデー』に掲載しているのだと言います。

 

自分が漫画化されていることに戸惑う肝太ですが、それでも日常は続いていきます。第2話では不良に絡まれているヒロインを助けたり、第3話では険悪な雰囲気になっている両親の仲を取り持ったりと、それなりに主人公らしい行動をしていく肝太。しかし、コミックス第1巻の締めくくりとなる第4話で、衝撃の展開が待っていました。

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)1巻より

両親を乗せた飛行機が墜落。

そして、「魔王」の軍勢による突然の襲撃。

ヒロイン・風岡 咲妃は実は「魔法少女」として魔王と戦っていたこと。

肝太は父親によって「変身ヒーロー」になるよう育てられていたこと。

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)1巻より

次々と伏線が明らかになっていき、ゼクレアトルが『主人公カン太』を魔法少女とヒーローが悪の組織と戦う、ド派手な王道バトルマンガ」にしようとしていること、第1話から第3話まではそのための「種蒔き」の期間だったことが明らかになります。

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)2巻より

「ゼクレアトルの台本通りに踊らされてたまるか」と、仙人の存在を周囲にバラそうとする肝太でしたが、それはゼクレアトルによって止められます。なぜなら……肝太が暮らす世界は「漫画『主人公カン太』のためだけに存在する宇宙」であり、『主人公カン太』という作品が打ち切られた瞬間に宇宙ごと消滅するからだと言います。

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)2巻より

『「この世界が虚構である」と周囲に告げる展開』は漫画として面白くならないため、打ち切りを避けられず、その結果今まで暮らしてきた世界が滅びる。この宇宙を存続させるための条件は『無事に物語を完結させること』。そうすればこの宇宙は『殿堂入り』し、消滅することなくありのままの姿で進んでいくのだといいます。

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)2巻より

ヒーローの必須条件……それは「孤独」。肝太は、知ってしまった世界の秘密を誰にも打ち明けることができないまま、魔王の軍勢との戦いに挑むことになります。しかし、この先の戦いで、肝太とその仲間たちにはさらなる悲劇的な運命が待っているのでした。

 

『ゼクレアトル』は、主人公・肝太が「漫画の主人公」だと自覚させられるという点で特異な作品ではありますが、「漫画=宇宙」という設定になっているため、緊張感が失われることがないのが面白いところです。肝太からしてみれば、自分が死ねば連載終了で世界が滅亡。さらに、自分の家族や友人たちも敵の襲撃で命を落とす危険があるという状況に追い詰められているわけです。我々現実世界の読者も、肝太の一挙手一投足から目が離せません。

 

さらに「前回の登場人物の行動や思考」を、毎週届く『仙人サンデー』で肝太が読むことで、通常の漫画ではありえない伏線や駆け引きが生じるのもこの漫画独自の面白さ。肝太は「自分がいなかった場所で起こったこと」「周囲の人物が口に出さず、脳内でひそかに思っていたモノローグ」を、『仙人サンデー』を通じて知ることができるのです。ただし、ゼクレアトルが漫画化した範囲で……ですが。

 

また、一見”イロモノ”な漫画のようですが、実は熱い世界観も筆者は個人的に大好きです。”ヒーローの必須条件、それは「孤独」”、”「それはなぜ」を繰り返した先にある「なんとなく」が心の核”など、連載終了から数年経った今でも強く思い出せるような、印象的な台詞が数多くあります。

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)1巻より

肝太がいる世界よりも”上の次元”、「仙人界」での漫画談義もおもしろく、ゼクレアトルをはじめとする新人漫画監督たちが繰り広げるシナリオ論は漫画好きの人なら必ず心惹かれるシーンだと思います。作中でははっきり言及されませんが、ゼクレアトルは”創造主”(the Creator)を意図したネーミングなんでしょうね。

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戸塚たくす・阿久井真『ゼクレアトル 〜神マンガ戦記〜』(小学館)2巻より

『ゼクレアトル』は、残念ながら未完で終了した作品です。4巻は「この続き、一体どうなるの!?」とすごく気になるところで終わりますが、5巻は7年経っても出ておりません。原作者の戸塚たくす先生はその後、IT企業に入社された旨をツイートされていますし、作画の阿久井真先生は『心が叫びたがってるんだ。』のコミカライズなど他の作品を多数手がけておられますので、『ゼクレアトル』が再開する可能性は限りなくゼロに近いと考えられます。が、しかし未完であっても充分に面白い作品であることは保証します。未完であってもあえてお薦めしたいほどの漫画なのです。漫画好きの人にこそ読んでほしい漫画『ゼクレアトル』、是非読んでいただけたらうれしいです。

 

第1話はこちら↓から

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