【今週のPowerPush】将棋は年齢も性別も関係ないケンカ！　柳本光晴の最新作『龍と苺』の、気性の荒すぎるヒロインから目が離せない

f:id:omosiro_manga:20201007172847p:plain — 柳本光晴『龍と苺』（小学館）1巻より

生きていれば、どうしても理不尽な出来事に遭遇することがあります。そんな時、どういう行動を取るかに、その人の個性が表れると言ってもいいかもしれません。

柳本光晴『龍と苺』（小学館、1巻まで発売中）のヒロイン、14歳の中学二年生、藍田苺が理不尽な出来事に遭遇した場合はどうするか。

椅子で殴ります。

柳本光晴『龍と苺』（小学館）1巻より

大人しい性格のクラスメイトがいじめを受けているところに暴力で介入した苺でしたが、特にそのクラスメイトと仲が良かったわけではなく、むしろ名前も知らないような間柄でした。暴力を振るった理由を聞かれた苺は言います。「人にするってことはされてもいいはずだなって思って。」「私はただ本気のケンカがしたかった。」苺は人助けがしたかったのではなく、自分の中の破壊衝動を何かにぶつけたがっているだけのように見えます。

柳本光晴『龍と苺』（小学館）1巻より

そんな苺に、将棋の天才的な才能があることが判明します。それも生半可な才能ではありません。将棋を覚えて二日目で、アマチュア四段〜五段程度の強豪を撃破してしまうのです。

将棋を指される方ならわかると思いますが、これは現実には絶対ありえないような、規格外の才能です。断言してもいいですが、羽生善治さんだって、藤井聡太さんだって将棋を覚えて二日目の時にはこんなに強くはなかったはずです。将棋には「定跡」と呼ばれるセオリーが多く、膨大な定跡をおぼえ、何千局も指して初めて強くなれるゲームだからです。

『龍と苺』は少年サンデー誌で連載されている漫画です。苺の異常な強さは、たとえば手からビームが出たり、パンチで岩を砕いたりするような、少年漫画的な空想や誇張がかかっている強さだといえるでしょう。

しかし、そんな非現実的なトンデモ将棋漫画ではあれど、『龍と苺』は大人が読んでも本当におもしろいのです。それはひとえに、ヒロイン・苺の直情的な行動の数々が、読んでいてスカッとするからに他なりません。

柳本光晴『龍と苺』（小学館）1巻より

対局前に苺に向かって暴言を吐き、負けたら謝ると約束したにもかかわらず、ちゃんと謝らなかった相手の顔面に駒をぶつける。慇懃無礼な物言いをしてくる相手には、相手が何歳年上の男だろうが果敢に言い返す。苺の行動は野蛮すぎるし、普通の大人なら思いついても絶対にやらないようなことばかりですが、それでも苺の行動は決して身勝手なものではなく、きっちりとスジが通っているように思えるのです。