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【今週のPowerPush】文学を愛する孤高の女子高生・スイは、ある特殊能力を持っていた。同級生からのいじめによって暴発寸前になるスイの能力。友人の天然少女・ショーコは不穏な暴力の予感を止められるのか……熊倉献先生の最新作『ブランクスペース』は誰も予想できない方向へ突き進んでいく

 

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

「『ジョジョの奇妙な冒険』の”スタンド能力”を何かひとつ貰えるとしたら、何が欲しい?」という、漫画好きの間では定番に近い質問がありますが、筆者はもし訊かれたら東方 仗助の”クレイジー・ダイヤモンド”と答えることにしています。壊れた物を直せるなんて最高の能力じゃないですか。

 

でも、仗助が戦った殺人鬼・吉良 吉影の”キラークイーン”に惹かれる気持ちも、正直かなりあります。嫌いな上司、失礼な店員、不愉快な知人……もしこっそり爆殺できる能力を持っていたなら、使わずにいられる自信はあまりありません。まして、もし10代の頃にそんな能力を持っていたとしたら、間違いなく道を踏み外してしまっていた気がします。

 

本日ご紹介する作品『ブランクスペース』(ヒーローズ、1巻まで発売中)も、ある特殊能力をめぐる物語です。その能力の持ち主は、文学作品を愛する孤独な女子高生。理不尽な”いじめ”に苦しめられる彼女は、能力を使って復讐するのでしょうか。それとも……

 

 ※『ブランクスペース』の1巻はこちら↓から読むことができます

viewer.heros-web.com

 

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

狛江 ショーコは高校一年生。6月のある日、勇気を振り絞って、好きな男子・ハヤシくんに話しかけます。「犬派? 猫派?」と。……唐突すぎる問いかけに、返ってきたのは「嫌い」「キモ」という言葉でした……。

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

ド天然なショーコは、テストも空欄だらけ、恋もうまくいかない、という冴えない高校生活を送っているのでした。

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

さらに追い打ちをかけるように突然の雨に降られ、近道をするため立入禁止の私有地に入り込んだショーコ。そこで出会ったのは、目には見えない透明の傘を差している同級生・片桐 スイでした。

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

スイが持っている「見えない傘」。スイは言います。「小さい頃からできるんだ…こういうこと」「頭の中に部品を思い浮かべる…そして想像の中で組み立てる…うまくいけば――現実に引っぱり出せる」。

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

この日を境に、ふたりは仲良くなりました。「見えないハサミ」や「見えないトースター」を作って遊ぶなど、スイの不思議な能力は平和な使われ方をしていたのです……この頃は。

 

しかし、二年生に進級し、ふたりのクラスが別々になると、事態は急に変化しました。

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

スイを標的にして行われるようになった陰湿ないじめ。いじめをきっかけにスイの能力は次第に暴走し始め、自分でも気づかないうちにプッシュダガー(殺傷用のナイフ)を作ってしまうなど、スイの能力は「自傷」と「報復」の方向へと向かっていきます。

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

いじめはどんどんエスカレートしていき……とうとうスイは能力を利用した行動に出ます。学年集会を早退したスイは、見えない銃で、外から体育館の窓ガラスを狙撃したのです。

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

スイの能力を知っているショーコだけは、窓ガラスを割った犯人がスイだということに気づきました。そして、スイの想像力がさらに過激な方向に向かっていることにも。

 

図書館で兵器の本を読むスイ。スイは次第に「触り心地のある暴力」のイメージを本の中に探すようになります。

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

「スイちゃん たぶんクラスでつらい目にあってて それで…考えが変な方向にいってる」「私が止めなくちゃ」。そう決意したショーコは、思い切ってスイを説得し始めるのですが……

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熊倉献『ブランクスペース』(ヒーローズ)1巻より

ここから(第5話)のストーリー展開を誰が予想できたでしょうか。「ティーンエイジャーと異能力」の組み合わせを描いた作品は数多くあれど、この方向に向かった作品はちょっと思い浮かびません。おそらく史上初なのではないかと思います。

 

思えば、熊倉献先生の前作『春と盆暗』(講談社、全1巻)も奔放な想像力によって駆動する連作短編集でした。たとえば主人公が一目惚れをした相手が、「接客していてストレスが溜まってくると、頭のなかで道路標識を月に向かって投げる想像をする」人だった……など、読者には全く予想もできないような世界がそこには広がっていました。

春と盆暗 (アフタヌーンコミックス)

春と盆暗 (アフタヌーンコミックス)

 

 今作『ブランクスペース』では、長編作品になったことで「想像力の世界」の解像度がますます上がり、さらに「想像力で作り上げたものが(物理的に)現実世界に干渉できる」という設定になっているため、さらにパンチ力が強い作品になっています。

 

連載の最新話まで読んでいますが、この作品の「結末」がどこに向かうのか、正直全然予想できません。まさか、本当にアレを…?? いやいやしかしそれをやってしまうと色々とアレが……。予想はつきませんが、でもきっとスイとショーコのふたりなら破滅的な未来を迎えることは無い気がします……たぶん……。気になりすぎるので、次の更新が待ち遠しくてたまりません。「何が青春だ、クソが」と思っているすべての若者と、かつてそう思っていたすべての若くない人に読んでほしい作品です。

ブランクスペース(1)

ブランクスペース(1)