【今週のPowerPush】時間や空間すらも歪める「魔法」に汚染された世界で、帰る場所をなくした孤児・ソルテは魔界の奥の奥を突き抜け、誰にも行けない場所……前人未踏の”世界の果て”を目指す! 洗練された演出でワクワク要素を乱れ撃つ『最果てのソルテ』1巻は冒険ファンタジー漫画の最先端!
ここではないどこか……この現実世界とは「違う」世界を舞台に、魅力的な主人公と愉快な仲間たちが冒険の旅に出る。そんなハイファンタジーは、少年漫画の王道と言ってもいいジャンル。多くの漫画家が描いてきた分野であるがゆえに、新たに描き始める人にはかなりの実力が求められるジャンルでもあります。
2021年1月……そんな冒険ファンタジー漫画の新たな傑作が発売されました。その名も『最果てのソルテ』(マッグガーデン、1巻まで発売中)。著者は『惑星のさみだれ』『プラネット・ウィズ』の水上 悟志先生です。
※『最果てのソルテ』第1話はこちら↓から読めます
取り壊しの決まった納屋の屋根の上に立ち、「取り壊しはんたーい!!」と叫ぶちびっ子・ソルテ。両親を亡くしたソルテは、この村の村長に引き取られ、育てられていました。
この世界は昔、魔法を使った大きな戦争があった世界。その時の悪い魔法が、世界のあちこちにまだ残っていて、そのようなエリアは「魔法汚染地帯」と呼ばれています。
魔法汚染を除去するための研究をしていたソルテの両親は、「魔法汚染地帯」である洞窟の奥に入り、帰らぬ人となってしまったのでした。両親の遺体は洞窟の中ではなく城下で見つかり、遺品は50年以上の時が経過したかのようにボロボロになっていました。魔法による汚染は時間や空間すらも歪めてしまうのです。
ある時、洞窟の入り口で雨宿りをしていたソルテは、洞窟の奥から現れた女性・サリエラと出会います。自らの命がもう長くはないことを悟っている様子のサリエラは、自分を村長の家に連れて行くようソルテに頼みます。
ソルテは、村長とサリエラの会話をこっそり聞いてしまいました。サリエラも、ソルテと同じく村長に育てられた孤児だったこと……さらに、実は村長は奴隷商と通じており、サリエラを奴隷商に売ってしまったことを知ったのです。
ほぼ全土を魔法に汚染された大陸「魔界」から、魔法の道具「霊宝」を引き揚げる職業「サルベイジャー」。奴隷として売られたサリエラはサルベイジャーの男に買われ、その手伝いをしているうちに自分もサルベイジャーになってしまったのだと言います。
サリエラは死の直前、ソルテにある「霊宝」を渡し「このまま家には戻らず逃げろ」「私の代わりに生きてくれ」と告げます。親代わりだと思っていた村長の正体を知ったソルテは、「帰るところはもうない だから果ての果てまで行ってやる!!」と、魔界の奥地、前人未踏の世界の果てを目指す冒険の旅に出ることを決意するのでした。
……と、第一話のあらすじをそれっぽく説明してきましたが、本編を既にお読みになった方はお気づきのように、上記の文章は「肝心な部分をあえて伏せて書いている文章」です。このあらすじを読んだ上で第一話を読んでも色々とびっくりすると思いますので、ぜひ上記のリンクから第一話を読んで驚きを味わっていただきたいなと思います。
『最果てのソルテ』の魅力は、何と言ってもワクワク感に溢れた冒険物語であること。魔法が存在するファンタジー世界で、時間や空間が歪むことすらあり得る危険な冒険が描かれるわけですから、読者は手に汗を握った状態でずっと読み続けることになります。
そして、ソルテと一緒に旅する仲間たちも本当にキャラが立っています。あえて画像で引用することはしませんが、小さなセレン、死にたがりのフィロ、物知りのブラック……彼らとの出会いによって物語はどんどん加速していきます。この4人の旅をいつまでも見ていたい……そんな気持ちになります。
『最果てのソルテ』はハイファンタジーなので、「世界観」の説明が必須になります。この記事の中で筆者が書いた簡単なあらすじの中でも『最果てのソルテ』特有の用語がいくつか出てきたように、「この世界の独自のルール」を読者に伝えなければいけません。その説明が足りないと読者は混乱し、その説明が多すぎると物語が間延びしてしまうわけですが……『最果てのソルテ』の語りはとてもスマート。「その手があったか!」と膝を打つようなテクニックを駆使して、ごく自然に世界観が説明されていくのが本当にすごいです。
子どもの頃、漫画の第一巻を読んでいて、主人公のすごい冒険が始まった時に身体の底から湧き上がってくるようなワクワク感を味わったことがきっとあると思います。「あの感覚」を今、再び味わえる作品が『最果てのソルテ』だと言っていいでしょう。実力のある作家さんによる最先端の冒険ファンタジー、是非読んでみることをお薦めします!