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【週末イッキ読み推奨】『寄生獣』『ヒストリエ』の岩明均先生が12年かけて練り上げたシナリオを、ベテラン・室井大資先生が渾身の漫画化! 戦国の世、家族を惨殺された過去を持つ死にたがりの少女が命じられたのは、武田信玄の孫・信勝の影武者になることだった! 『レイリ』全6巻、読み始めたら止まらない!

 

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岩明均室井大資『レイリ』(秋田書店)1巻より

凡そ「漫画好き」を自称する人であれば、岩明均先生を知らない人はまず居ないでしょう。ダークファンタジー漫画のマスターピースとなり、現在でも多くの作品に影響を与え続けている記念碑的名作『寄生獣』や、古代ギリシアの実在の人物・エウメネスを主人公とした、ゆるやかに流れる大河のような歴史ロマン『ヒストリエ』など、傑作を生み出し続ける漫画界のスターです。

 

本日ご紹介する作品『レイリ』(秋田書店、全6巻)は、その岩明均先生が12年かけて練り上げた構想を基にシナリオを執筆した作品です。そして作画を手がけたのはベテラン・室井大資先生。代表作『秋津』はコメディ作品ですが、『ブラステッド』や、別名義で原作を担当する『バイオレンスアクション』などでは容赦のない暴力描写に定評がある実力者で、岩明均先生の作風との親和性がかなり高い作家さんです。そんな二人の漫画家の強力タッグによって生まれた作品『レイリ』は……読み始めたら止まらなくなる大傑作なのです! 

 

※『レイリ』第一話はこちら↓から読むことができます

mangacross.jp

 

天正7年(1579年)。遠江国(現在の静岡県西部)の「小山城」を守る雑兵たちの間には、ある「慣例」がありました。

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岩明均室井大資『レイリ』(秋田書店)1巻より

銭を賭け、木刀で戦う雑兵たち。一人、また一人と敗れていき、最終的に”一番強い雑兵”が決まります。すると……

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岩明均室井大資『レイリ』(秋田書店)1巻より

勝ち残った最後の一人が、賭け銭を持って勝負を挑むのは、ひとりの少女。この少女・レイリは、この城の雑兵たちの誰よりも強いのです。

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岩明均室井大資『レイリ』(秋田書店)1巻より

レイリには壮絶な過去がありました。遡ること4年前……天正3年の「長篠の戦い」。勝利した織田の軍勢の武士たちは、自らの手柄を証し立てるために「敵の兵士の首」を集めていました。そして、農民の一家が武士たちに襲われたのです。武士たちは、農民一家の首を「敵兵の首」に偽装し、己の手柄に代えようとしたのでした。

 

その農民一家の長女であったレイリは、自分たちを庇おうとした父と母が武士たちに惨殺されるところを目の前で見てしまいました。そして、レイリと一緒に逃げた弟もまた、追ってきた武士たちによって殺されてしまいます。

 

自らも殺される寸前だったレイリを助けたのは、文武両道の武将として名高い岡部 丹波でした。武田家の家臣である彼は、レイリを小山城で養育することにしたのですが……修行を重ねた結果、レイリは誰よりも強くなり、「戦場で丹波さまの盾になって死ぬ」ことを願う死にたがりの少女戦士になってしまったのです。自分を庇ってくれた家族たちのように、自分も誰かの盾になって死んで、そして早く家族のもとへ行きたいと、レイリは願うのでした。

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岩明均室井大資『レイリ』(秋田書店)1巻より

そんなレイリに目をつけたのが、剣も槍も武田家一と言われ、若くして武田家の重臣にまで登り詰めた土屋 惣三。彼が注目したのは、レイリの強さ、そして容姿でした。なぜならレイリは、あの武田 信玄の孫であり、”武田家の希望”と評される天才少年・武田 信勝に瓜二つだったからです。レイリは信勝の影武者になることを命じられますが、彼女の前に数奇な運命が待ち構えていることを、この時はまだ誰も知らなかったのでした……。

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岩明均室井大資『レイリ』(秋田書店)2巻より

本作『レイリ』をお薦めする際に何としてもお伝えしたいのは、歴史の知識がなくてもめちゃくちゃ読みやすい作品だということ。実は筆者は戦国時代にほとんど興味がなく、「好きな戦国武将」みたいなトークにも全く乗れないようなタイプの人なのですが、そんな筆者でも『レイリ』はするすると読むことができました。古代ギリシアの知識がほとんどなくても『ヒストリエ』を読むとき困りませんよね? あの感じです。ストーリーと演出が高度に洗練されている「親切設計」なので、予備知識が不要なのです。それほどシリアスでないシーンではキャラが現代風の喋り方をするなど、緩急のつけかたも抜群にうまく、作者の手のひらの上で転がされるまま、あっという間に全6巻を読み切ってしまうでしょう。

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岩明均室井大資『レイリ』(秋田書店)2巻より

武田家を滅ぼすことに執念を燃やす織田 信長。天才・武田信玄は6年前に亡くなっており、その息子の現当主・勝頼は戦上手とは言えない”バカ殿”。武田家の運命はまだ若い信勝に懸かっている……。戦乱の世で、レイリの運命が、そしてレイリの恩人である岡部や土屋の運命が、武田家の未来を託された信勝の運命が激しく揺れ動きます。死を目前にした状況で、それぞれの生き様が煌めいて見える瞬間が何度もあり、それが読者の心を激しく揺さぶるのです。

 

原作を岩明均先生が、作画を室井大資先生が担当されている本作。一読すると「絵柄は違うけど岩明均先生っぽいコマ”がたくさんあるな」と感じると思います。『寄生獣』を読んでいる時に近い読み味というか。なので、筆者は最初「岩明先生がネームまで書いて、室井先生が作画を担当されているのかな」と思っていました。

 

しかし、あとがきを読むと、岩明先生が文字でシナリオを書いてそれを室井先生に渡すというスタイルだったそうです。ということは……「岩明先生っぽい」と感じるコマが多くありますが、それは室井先生が”寄せている”ということなのだと思います。”絵柄は寄せずに演出を寄せる”という、リスペクトに満ちたプロの技なのではないかと思います。(演出プランはシナリオ上でかなり綿密に指定されていたそうですが、それをここまで完璧に作画に落とし込めるのは熟練の技術でしょう)

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岩明均室井大資『レイリ』(秋田書店)2巻より

あとがきで岩明先生は、『私は「キャラクターが描きたい」ではなく、「出来事が描きたい」という所から物語を書き始める。』と書かれていますが、『レイリ』はまさに歴史上のドラマから逆算して、それを最も輝かせるようなキャラ設定(全くの虚構の人物を作り上げるわけではなく、実在の人物に幾らかの虚構性を足していく方式……『ヒストリエ』と同じですね)がストーリーに盛り込まれており本当に凄いです。全6巻と比較的短いですが、そこに描かれているドラマの内容からするとこの「全6巻」という巻数は「長すぎも短かすぎもしない、ちょうどいい長さ」です。濃厚な物語を過不足なく描き切った本作、ぜひ一気に読み切ることをお薦めします。