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【週末イッキ読み推奨】恋は叶わない時、一番美しい……いつも仲良しな女子三人組の中では、三つの片想いが三角形のように循環していた! 恋と友情の間で揺れ動く中学生たちの心情を深く掘り下げ、定義できない感情を丁寧にすくい上げていく『ななしのアステリズム』は胸が締めつけられるような繊細な物語

 

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小林キナ『ななしのアステリズム』(スクウェア・エニックス)1巻より

突然ですが、筆者は最近、2015年から2017年にかけて連載されていた作品『ななしのアステリズム』(スクウェア・エニックス、全5巻)を久しぶりに読み返してたんです。読み返した結果……「うわあああああああああ!」と叫びながら胸をかきむしり、布団の上をのたうち回りたくなるような気持ちになったので、この苦しさ、そして切なさを皆様にもおすそ分けしたいなと思い、筆を執った次第です。

 

1巻では「恋は叶わないとき、いちばん美しい。」、2巻では「重ねた秘密のぶんだけ、好きになる。」という横槍メンゴ先生からの推薦文がオビに寄せられていた本作。そんな切ない青春ストーリー『ななしのアステリズム』を本日はご紹介していきます。

 

 

※『ななしのアステリズム』1話はこちら↓で読めます

seiga.nicovideo.jp

 

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小林キナ『ななしのアステリズム』(スクウェア・エニックス)1巻より

活発なスポーツ少女の白鳥 司、”女子力”が高く彼氏をとっかえひっかえしている琴岡 みかげ、クールで真面目な天文部員・鷲尾 撫子(なぜかツインテールにしていますが、理由があって「あえて似合わないこの髪型を選んでいる」という設定が後で明かされます)の3人は、同じ中学校に通う仲良し3人組。

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小林キナ『ななしのアステリズム』(スクウェア・エニックス)1巻より

司には、秘密がありました。それは、中学生活初日に電車の中で撫子に出会った(司の髪が撫子の袖のボタンに絡まった)時から、撫子に恋をしているということ。

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小林キナ『ななしのアステリズム』(スクウェア・エニックス)1巻より

その時、同じ電車の中にいたみかげが裁縫セットを貸してくれたことから、司、撫子、みかげは自然と”3人組”になったのでした。この3人の関係を壊したくない――そう思った司は、自分の気持ちを隠し続けることを決意します。しかし……

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小林キナ『ななしのアステリズム』(スクウェア・エニックス)1巻より

ある日、司は目撃してしまうのです。寝不足のため保健室で休んでいたみかげの唇を奪いそうになっている(※未遂でした)撫子の姿を。撫子もまた、みかげに恋をしているのでした。

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小林キナ『ななしのアステリズム』(スクウェア・エニックス)2巻より

撫子の恋を「友達として」応援することに決めた司。しかし司は気づいていませんでした。なんと、みかげは司に恋をしていることを。そして、みかげは「司の撫子への想い」にも「撫子のみかげへの想い」にも(!)気づいているのです。三人の片想いが綺麗な三角形を形成していることを、みかげだけが知っているのでした。

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小林キナ『ななしのアステリズム』(スクウェア・エニックス)2巻より

みかげは「『友達』を好きになってはいけない」「自分は男の子を好きになりたいし、司や撫子にも男の子を好きになってもらいたい」という半ば強迫観念のような意識に縛られている少女でした(そのような考えに囚われるようになった理由も後々明かされます)。こうして、恋と友情の間で揺れ動く循環型の三角関係が完成したのです。

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小林キナ『ななしのアステリズム』(スクウェア・エニックス)2巻より

『ななしのアステリズム』はいわゆる「百合」作品の定義には当てはまらない部分があります。それは、主人公・司の双子の弟である白鳥 昴(女装が趣味で、姉のことを偏愛しています)や、司に告白してくる他校の少年・朝倉 恭介(めっちゃいいやつです)など、男子の登場人物もストーリーに深く関わってくるという点。いわば、主人公の司を中心に二つの三角関係が形成されるような状況になるのです。ちなみにこの昴と恭介の間に友情が育まれていく過程もなかなかエモいものがあるのですが、長くなるのでこの記事では省略します……とにかく本作『ななしのアステリズム』は「『百合』要素も含んだ青春ストーリー」と形容するのが最も相応しいような気がします。

 

筆者が『ななしのアステリズム』を強く推したい点……それは、「気持ち」を安易にカテゴライズしないところにあります。たとえば、司の双子の弟である昴は生まれて初めて告白をされた時「”仕分け”されたように感じた」、望んでないのに突然「男」や「大人」に仕分けされたようで「気もち悪い」と感じた、と語ります。そして、それは”無性愛者”や”性嫌悪”にあたるのではないかと聞かれると「名前を付けられてもピンとこない」「これだよって決めなきゃだめなのかな」と答えます。

 

『ななしのアステリズム』で語られるのは、あくまでも「このキャラがこういう経験をして、その時こう感じた」という出来事の積み重ね。それが社会の中でどういうラベルを貼られて分類されることかということに、作中の人物たちも作品自体も興味を示さないのです。彼ら彼女らが大切にしているのは、この作品が描きたいのはあくまでも「気持ち」そのものであって、その気持ちが社会でどういう名前で呼ばれるかはどうでもいいし、本当にその分類に当てはまる気持ちなのかどうかも関係ない……そんな姿勢はとても潔く、そしてカッコいいと筆者は思います。

 

アステリズム(星群)とは、国際天文学連合から公式に認められた「星座」とは違う、非公式な「星の連なり」を指す言葉なのだそうです。たとえば「夏の大三角形」のような。司・みかげ・撫子の苗字が「夏の大三角形」のデネブ・ベガ・アルタイルをモチーフにしていることは言うまでもありません。

 

司を中心とした五人の少年少女たちの関係を、たとえば「百合」とか「シスコン」とか「BL」とか、それっぽい言葉で形容することは容易いと思います。ですが、本作を読んでいくと、同じ「友達女子への片想い」であっても3人とも全然違うことを考えていますし、昴の姉への想いが世の「シスコン」と一致するものとも限りません。『ななしのアステリズム』は、世界で彼ら彼女らだけが築く唯一の関係性を描こうとし、それに成功した作品だと筆者は思いますし、それはまさに、名前のない、この世でたったひとつの関係性だったと思うのです。

 

 

ななしのアステリズム(4) (ガンガンコミックスONLINE)

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  • 作者:小林 キナ
  • 発売日: 2016/11/22
  • メディア: コミック
 

 

 

なお、本作はカバー裏におまけがあるのですが、全部読んだあとで、最終5巻のカバー裏を見てから、第1話を読み直すのがおすすめです。素敵な仕掛けです。